<陸上:セイコー・ゴールデングランプリ川崎>◇6日◇等々力

 ディーンはやっぱり本物だった!

 男子やり投げのディーン元気(20=早大3年)が強い向かい風に負けず、81メートル43の好記録で初優勝した。1投目で81メートル超の大アーチを決めると、悪条件下で80メートル近い記録を連発。先週の織田記念で記録した84メートル28がフロックでないことを証明した。

 ディーンのやりが、強風舞う等々力の空を切り裂いた。こん身の力を込めて投げた瞬間、やりが着地するのを待つことなく、右手人さし指を立てた。80メートルラインを越える。記録は81メートル43。「ウォーッ!」。会場から、この日一番の大歓声が起きた。「前半で勝負を決める」。そう自らに言い聞かせて臨んだ試合で、狙い通りの投てきだった。

 ディーン

 天候が悪くなるのが分かっていたので、先に(記録を)投げた人の勝ち。1投目に決められてよかった。

 1週間前の織田記念を86メートル31で制したファーカーが77メートル35、87メートル33の記録を持つルースカネンも74メートル93止まり。海外の有力選手が強風に苦戦する中、安定した力を披露した。2投目は79メートル03、3投目も79メートル98と「大台」目前。さらに最終6投目も79メートル99でまとめた。万全ではなかったとはいえ、村上幸史を抑え、記念すべき国際大会初優勝を飾った。

 ディーン

 記録に比例しないけど、3投目もよかった。83メートルの感覚はあったけど、風に押し戻された。投げ自体は安定して、いつでも投げられる。先週の84メートルはまぐれじゃない。自分の中でもそれは感じました。

 この日は「仮想ロンドン」で戦った。五輪の予選は3本勝負。その中で1本目から確実に記録を取った。「緊張感がある中で、冷静な動きができた。それが収穫」。4月29日の織田記念で大ブレークし、1週間後の川崎で実力を証明。10日ほど前までは「ホープ」にすぎなかった若者は、今や日本陸上界の超新星だ。

 村上の存在がディーンをここまで高めた。2年前に世界ジュニアで銀メダル。そこから「世界」を意識した。その上で、09年世界選手権銅メダルの村上が目標となった。「やり投げの道を切り開いてくれた。僕なんてまだまだ」。だからこそ、80メートルの大台で日本人2人が勝負したことに大きな意味があった。

 大会終了後は、スタンドで中高生のサイン攻めに遭った。英国人の父を持つハーフ。海外向けメディアの取材には堪能な英語で受け答え。獅子をほうふつさせる端正な顔立ちがきりっと引き締まった。五輪イヤーのゴールデンウイーク、若き才能が輝きを放った。【佐藤隆志】

 ◆ディーン元気(げんき)1991年(平3)12月30日、神戸市生まれ。平野中から陸上競技を始め、中3の全日中で砲丸投げ4位。やり投げは市尼崎で始め、09年総体はやり投げと円盤投げの2冠。砲丸投げと円盤投げは3年連続で総体出場。早大進学後はやり投げに重点を置き、10年日本選手権3位、昨年の日本選手権はこれまでの自己ベスト79メートル20で2位。昨年のアジア選手権は76メートル20で7位入賞。趣味はヒップホップ系の音楽鑑賞。182センチ、85キロ。家族は父ジョンさん、母博子さん、姉綾さん、兄大地さん。血液型A。