<陸上:愛知陸上選手権名古屋地区予選会>◇初日◇2日◇名古屋・瑞穂陸上競技場

 陸上男子400メートル障害の日本記録保持者で、3大会連続五輪出場中の為末大(34=CHASKI)が2日、今夏限りでの引退を表明した。ロンドン五輪代表選考会となる日本選手権(8日開幕、大阪・長居陸上競技場)へ向けて、約1年ぶりのレースとなる愛知選手権予選会に出場。転倒したレース後に、ロンドン五輪または日本選手権を最後に第一線から退くことを明かした。世界と戦ってきた「侍ハードラー」が、背水の覚悟で4度目の五輪切符をつかみにいく。

 「侍」が刀を置く覚悟を決めた。ロンドン五輪切符を争う決戦まで、あと5日。尾張名古屋で1年ぶりにハードルを越えたばかりの為末が、すがすがしい表情で固い決意を明かした。

 為末

 今年で終わりと決めました。五輪に行ったらロンドン、行けなかったら日本選手権で。最後のレースは日本選手権じゃなく、ロンドンにしたいという強い思いがありますね。

 レース前には、自身のツイッターでも引退をつぶやいていた。

 先月3日に34歳になった。昨年の日本選手権は6位。世界選手権(韓国・大邱)の出場を逃し、「引退」の二文字が浮かんできたという。「もしかしたら自分の時代が終わってるかもと。精神的なものよりも体が衰えてる。ハードル跳ぶたびに2日くらいアキレスけんが腫れてますから」。

 この日は、その日本選手権以来となる400メートル障害を走った。ハードル間を13歩~15歩で快調に飛ばしながら、最終10台目に右足を引っ掛けて転倒。「あのままなら50秒ちょっと」の56秒73に「(転倒は)シドニー五輪以来かな。日本選手権がぶっつけも嫌だったし、ギャップも見えました」。1週間前の風邪で「呼吸器系の練習ができなかった」状態で、ある程度の満足感と手ごたえをつかんだ。

 為末

 若い選手ほどエネルギーが詰まった体じゃないですけど、持っているエネルギーを使って燃え尽きたい。優勝できるのは6対4の4くらいかな。最後になるかもしれないけど、ロンドンへの道がつながるかもしれない。ただ、僕は一発がある選手だと(自分を)思ってるんでね。

 4度目の五輪へ若き「侍」が待ち構える。既に法大の後輩になる岸本鷹幸ら3人がA標準記録(49秒50)を突破。日本選手権では2日間で3レースというハードな日程の中で、「49秒20は出せる」という自信とともに優勝して内定をつかむしかない。「自分へのハッパ」として行った引退宣言。為末が背水で「大坂夏の陣」へ挑む。【近間康隆】

 ◆為末大(ためすえ・だい)1978年(昭53)5月3日、広島市生まれ。五日市中で本格的に陸上競技を始め、広島皆実高3年で総体400メートル優勝。400メートル障害は高3の広島国体で初挑戦して優勝。02年に大阪ガス入りし、03年秋からプロとして活動。01年、05年の世界選手権で銅メダル。五輪は00年シドニー大会から3大会連続出場中。400メートル障害の自己ベストは01年エドモントン世界選手権での47秒89(日本記録)。家族は妻。170センチ、66キロ。

 ◆陸上のロンドン五輪への道

 昨年4月に国際陸連(IAAF)が発表した参加標準記録は、1カ国1種目3人まで出場できるA標準と、1種目1人のB標準に分かれている。日本陸連はA標準突破者が日本選手権で優勝すれば「即内定」の方針。男子400メートル障害は岸本鷹幸(法大)が5月の静岡国際で48秒88をマーク。49秒27の今関雄太(渋谷幕張高教)と49秒41の小西勇太(立命大)もA標準、安部孝駿(中京大)が49秒64でB標準をクリア。