<別府大分毎日マラソン>◇3日◇大分市高崎山うみたまご前-大分市営陸上競技場(42・195キロ)

 鉄人が“有言実行の爆走”で3連勝を果たした。公務員ランナー川内優輝(25=埼玉県庁)が、自己ベストを22秒更新する2時間8分15秒で、今夏のモスクワ世界陸上切符を確実にした。28キロからマッチレースを展開した12年ロンドン五輪6位入賞の中本健太郎(30=安川電機)を、40キロ過ぎで振り切り、大会記録を17年ぶりに15秒更新するおまけ付き。「駅伝中心でマラソンがおまけの選手には負けたくない」の思いを激走で示し、初マラソンの地で7度目の優勝をマークした。

 別府湾から吹き付ける左からの涼風。それが合図だった。40キロ過ぎの弁天大橋で、川内が最後の力を振り絞る。中本の足音が徐々に消えてゆく。橋を渡り坂を下ると祈るような母の姿。競技場に入り2時間7分台の電光掲示が見えた。「このままなら8分台前半」。モスクワを確信してゴール。トレードマークの“倒れ込み”はなかった。

 何もかもが早い。前日は「80%は出る」と話していた世界陸上選考会のびわ湖毎日(3月)を「びわ湖をやめて3月のソウルで7分台を目指します」。代表選出を確信した急転の路線変更。陸連幹部を苦笑いさせたのも川内らしかった。

 昨年12月の福岡国際で堀端がマークした2時間8分24秒を上回った。「相当のピーアールになった。大きい」と川内。その福岡で27~28キロ付近から失速した。今回、10人の先頭集団から中本とともに抜け出したのが同じ地点。偶然ではない。福岡後、失速したりゴール直後に倒れ込む原因を分析。血液検査で耐乳酸値や最大酸素摂取量を通し、自分の体を科学的に研究した。手足のしびれ、筋肉のけいれんを起こさないために水分、塩分の摂取に気を配り、体重も3キロ落として臨んだ。ただのガムシャラ男からの脱皮だ。

 レース運びも冷静だ。5キロ15分10秒のペースメーカーの上下動が激しくても「海外ではよくあることとポジティブに考えて、全体を見渡せる後ろの位置に下がった」ことで足をためた。4度の仕掛けで中本にピタリと追走されても「ラストのトラック勝負になれば」と見極め、5度目の仕掛けでケリをつけた。

 ただ本能的に譲れない一線?

 はある。験担ぎでもある大好物のカレーだ。前夜も母美加さん(48)とカレー店に行き、大盛り2杯をペロリ。米が切れ「炊くのに30分かかる」と言われ、あきらめるかと思いきや、店を変えて大盛り1杯。カレーパワーが後押しした。

 「駅伝のおまけでマラソンをしている」「みにくい日本人1位争い」…。実業団ランナーに呈してきた苦言が、ただの強がりでないことを走りで実証した。一昨年の韓国・大邱世界陸上での帰り際、エスビー食品の瀬古利彦監督に言われた。「オレの記録を抜きなさい」。それも12秒上回った。「現役最強」の看板に異論を挟む余地はない。

 先月は1泊4日のエジプト弾丸ツアーを敢行し、その翌日には駅伝も走った。福岡国際から、この2カ月で4度目のフルマラソン。常識を打ち破る革命児は、サインをせがまれた少年のTシャツに「現状打破」と一筆。2月の東京、3月のびわ湖に出場する代表候補生には、こう呼びかけた。「消極的な情けないレースでなくタイム、順位をしっかり狙ってほしい」。男子マラソン界が、この公務員ランナーを中心に回る。【渡辺佳彦】

 ◆来月はソウル

 川内は予定していたびわ湖毎日マラソン(3月3日)を回避し、ソウル国際マラソン(同17日)に出場する意向を明かした。昨年の大会はケニア選手が2時間5分36秒で優勝しており「ハイレベルなソウルで、2時間7分台を狙いたい」と話した。

 ◆世界陸上選考

 枠は5人。(1)昨年12月の福岡国際、今年2月の東京、3月のびわ湖毎日で、派遣設定記録(2時間7分59秒)をクリアした日本人1位は代表決定。(2)昨年のベルリン、シカゴ、ニューヨークシティー(中止)と今年のボストン、ロンドンで派遣設定記録をクリアすれば候補となる。(1)(2)で満たない場合は(1)の3大会に今回の別府大分毎日を加えた4大会の日本人3位以内から選考。現状で決定者はいない。