<陸上・日本グランプリシリーズ第3戦:織田幹雄記念国際陸上競技大会兼世界選手権代表選考会>◇最終日◇29日◇エディオンスタジアム広島◇男子100メートル

 17歳の桐生祥秀(よしひで=京都・洛南高3年)が日本歴代2位の10秒01をマークした。世界選手権で日本短距離界初のメダルを獲得した男子400メートル障害の為末大氏(34)は、桐生の速さの一因として「胴体の安定」を挙げた。

 桐生君が五輪代表の山県君に競り勝ち、記録だけではないことを証明した。世界ジュニア1位、今季世界ランク1位。次々とすごい記録を打ち立てたわけだが、一体どこがすごいのか。

 昨年11月に10秒19を出したときは、まだ少し胴体がぐらぐらして粗削りなところがあった。だが、この日は胴体が安定していた。100メートルは時速40キロ近い速さで、手足も1秒間に5回転する。それだけのスピードで動くと振り回す側の胴体が安定していないと、自分の手足に自分の体が揺さぶられる。それが収まり、しっかり自分の胴体で手足をコントロールしていた。

 その特徴としては、終盤にあごを引いて背中を安定させている。あごを引くと背中が1本の棒になったようにロックがかかる。そうすると足を前後に動かしやすい。ただ、分かっていても10秒0台の速さで動くと腹筋と背筋は耐えきれず、その姿勢を途中で保てないもの。だが桐生君は筋力と、それからあごを引いたり腕をうまく使い、姿勢を保ち走り切っている。手足の筋肉よりもまず、その体を支える力が素晴らしい。

 もし世界選手権で決勝に進出するようなことがあれば、日本はおろか、世界でも珍しいジュニア選手のファイナリスト誕生だ。そのカギとなるのが、勝負がかかった状態でどこまで姿勢を保てるか。山県君が競りかけた時、最後の数歩でバランスを崩し、体の中心が乱れてゴールした。世界に出ると、とんでもないスピードで後半に競りかけてくる。その中でどれだけ姿勢を保ち切れるか、そこが勝負の分かれ目だろう。

 桐生君のレースについてツイッターで、短距離の元世界王者のアトボルドン(トリニダード・トバゴ)がリツイートしていた。もう日本だけではなく、世界が注目するスプリンターになりつつある。(為末大)