<陸上:日本選手権兼世界選手権代表選考会>◇第1日◇7日◇東京・味の素スタジアム◇男子100メートル予選

 予選1組は、山県亮太(20=慶大3年)が10秒14で世界選手権参加標準記録Aを突破した。

 力感はない。流れるように、あくまでもスムーズにピッチを刻む。電光掲示をチラッと横目にした山県の表情が崩れた。2着の川面を、約2メートル離して出したタイムは10秒14。ロンドン五輪で五輪史上日本人最速の10秒07を出した男が、ようやく世界選手権A標準(10秒15)を突破した。「これで決勝に向けて気持ちが楽になりました」。

 今季、ここまで「単なる通過点」「自分には心の準備がある」「自分が先に出す必要がある」と何度も9秒台に対するこだわりを口にしていた。ただ結果がなかなか伴わない。自分に問い詰めた。「自己ベストを出した去年の自分の走りにとらわれすぎていた。去年の自分は、もういないぐらいのつもりで開き直って」(山県)レースを進めた。

 レース後、日本陸連科学委員会が出したデータがある。最高速度到達点は、桐生が40~50メートル区間で秒速11・36メートル(時速40・90キロ)。同じ秒速を山県は60~70メートル地点で出している。さらに後半の落ち込みも山県は抑えている。スタートダッシュに成功すれば、4月に0秒01差で敗れた桐生へのリベンジもできる。そして9秒台へ-。「雰囲気や条件でタイムはどうにでもなりますよ」。初優勝も日本人初の快挙も、後輩には譲らない。【渡辺佳彦】