【モスクワ7日=益田一弘】陸上男子100メートルの桐生祥秀(17=京都・洛南高3年)が、屈指の高速トラックを追い風に日本初の9秒台を目指す。10日開幕の世界選手権を前に、日本代表の第2陣として現地に到着。今回使用するトラックは、09年の同選手権ベルリン大会でウサイン・ボルト(26=ジャマイカ)が世界記録9秒58を出した際と同じイタリア・モンド社製であることが判明。初心に帰って走る桐生に快挙の期待が高まった。

 桐生が、決戦の地モスクワに降り立った。成田空港から約10時間のフライトを終えて「機内で寝ました。他の選手を見れば気持ちも高まってくると思う」。大会のテレビ中継でキャスターを務める俳優織田裕二とは同便だった。「頑張って」と激励され、がっちり握手。自らバリカンで整えた9ミリの丸刈り頭をなでて「来たからにはしっかり自分の走りをしたい」と闘志を高めた。

 日本初の9秒台へ、世界最高峰のスーパー高速トラックが用意された。メーン会場のルジニキスタジアムでは、イタリア・モンド社のトラックを使用することが分かった。同社製は反発力が強く、好タイムを後押しすることで知られる。ボルトが9秒58を出した09年ベルリン大会でも同じトラックが使われた。しかも今大会用に、新品のトラックに張り替えられている。

 日本陸連関係者は「新品はタイムが出やすい。45度以上の高温になれば、トラックが軟らかくなるけど、それはないでしょう」と話した。モスクワは8月の平均最高気温22度で、トラックの持ち味が失われる可能性は少ない。

 4月に日本歴代2位の10秒01を出した桐生は、男子100メートルの今季ベスト記録ランキングで79選手中11番目。9秒台、さらには五輪を含めた世界大会で、日本人81年ぶりのファイナリスト誕生の期待も高まっている。だが桐生は、表情を引き締めて口にした。

 桐生

 その情報は何となく知りました。(10秒)01は出したけど、バーミンガムでは関係なく、持ちタイム通りに(順位は)いかなかった。タイムには甘えず、ゼロとしてスタートしたいなと思っています。

 初の海外レースだった6月30日のダイヤモンドリーグ第7戦は自己ベストで16人中7番目も、10秒55で全体の16番。バーミンガムで喫した屈辱は心にしみ、世界の厳しさを思い知った。

 出発前の成田空港内売店では両替を済ませると必需品の?

 ティーバッグも無事に買い、初々しさものぞかせた。一方で初対面となるボルトからも「生で見るのは初めて。サブトラックから、どんな動きをするのか見てみたい」と貪欲に吸収する構えだ。10秒01の衝撃から約3カ月。真夏のモスクワで「ジェット桐生」が、旋風を巻き起こす。

 ◆桐生祥秀(きりゅう・よしひで)1995年(平7)12月15日、滋賀県彦根市生まれ。彦根南中から陸上を始める。中3時に200メートルの全国2位になって洛南高に進学。今年4月29日織田記念国際で日本歴代2位の10秒01を記録した。6月の日本選手権は2位、高校総体では100メートル、200メートル、400メートルリレーの3冠を達成。同校の総合2連覇に貢献しMVP獲得。175センチ、68キロ。