男子400㍍個人メドレー 決勝 わずかの差で萩野(奥)に勝利し優勝する瀬戸(撮影・清水貴仁)
男子400㍍個人メドレー 決勝 わずかの差で萩野(奥)に勝利し優勝する瀬戸(撮影・清水貴仁)

 ガツンとやられた。4月13日の競泳日本選手権第1日、男子400メートル個人メドレー決勝のことだ。

 昨年のリオデジャネイロ五輪金メダリストの萩野公介(22=ブリヂストン)と銅メダリストの瀬戸大也(22=ANA)が、社会人初の大会で直接対決。結果は4分超を泳いで、わずか100分の1秒差で瀬戸が初優勝を飾った。これが、極上のエンターテインメントだった。

 その魅力は、劇的な決着だけじゃない。むしろ4分超の「道行き」に面白さがつまっていた。メドレーはバタフライ→背泳ぎ→平泳ぎ→自由形を100メートルずつ順番に泳ぐ。そしてこの2人は得意泳法がきれいに色分けされている。つまりバタフライ=瀬戸→背泳ぎ=萩野→平泳ぎ=瀬戸→自由形=萩野という流れだ。

 決勝はその特色が見事に現れた。50メートルの区切りで、トップが瀬戸、瀬戸、萩野、萩野、萩野、瀬戸、萩野、瀬戸と4度の入れ替わった。しかも300メートル以降の2人のタイム差は0秒07、0秒13、0秒04、0秒01だ。めまぐるしく攻守が入れ替わるボクシングのような、逆転に次ぐ逆転で勝敗の行方がわからない野球のような、ひりひりするような4分超のレースだった。

瀬戸(右)は萩野と健闘をたたえ合う
瀬戸(右)は萩野と健闘をたたえ合う

 テレビで映像が流れる場合、400メートル個人メドレーはダイジェスト映像が多く、4分超をすべて流すことは少ないだろう。ただダイジェスト映像で見るのは、あまりにもったいない。

 記者は昨年11月に水泳担当になった。最初の日本選手権、しかも第1日からこんなレースにみせられて、頭を殴られたような衝撃を受けた。萩野と瀬戸のライバル物語は、2020年東京五輪まで続いていく。もし東京五輪決勝で極上のエンターテインメントが繰り広げられて、2人のワンツーフィニッシュが100分の1秒差で決着したら…。ガツンどころじゃなくて、ぶっ倒れるかもしれない。【益田一弘】

 ◆益田一弘(ますだ・かずひろ)広島市出身、00年入社の41歳。大学時代はボクシング部。プロレス、相撲、ボクシング、サッカー、野球、冬季五輪、陸上、水泳などを担当。昨年のリオ五輪は陸上担当として、男子400メートルリレー銀メダルなどを取材した。