【楽天週間④三木谷浩史おおいに語る】39歳でこの胆力「物事を俯瞰で見た時の、直感力を信じた方がいい」

ウィークデー通しの楽天特集。第4弾は、三木谷浩史オーナーの登場です。球界再編のうねりを経て、半世紀ぶりに新規参入を果たした直後。初年度を迎える正月の単独インタビュー…貴重な文献です。(2005年1月1日掲載。所属、年齢など当時。敬称略)

傑作選

久我悟

2005年、日本プロ野球に50年ぶりの新規参入球団が現れる。「東北楽天ゴールデンイーグルス」。三木谷浩史オーナー(39)が強烈なリーダーシップを発揮し、球団誕生からわずか5カ月で3月26日のロッテ戦(千葉)で開幕を迎える。斬新なアイデアで地域密着型の球団を目指し、東北から「日本を元気にしたい」と意気込む。風雲児の風情を漂わすリーダーに、型破りな人生や球界参入への「きっかけ」を聞いた。

とてつもなく珍しい1枚。新幹線移動中、牛たん弁当を披露!=2004年9月28日

とてつもなく珍しい1枚。新幹線移動中、牛たん弁当を披露!=2004年9月28日

◆三木谷浩史(みきたに・ひろし) 1965年(昭40)3月11日、兵庫県神戸市生まれ。明石高から一橋大を経て88年日本興業銀行入行。93年米ハーバード大学院でMBA(経営学修士)取得。95年興銀退職、96年クリムゾン・グループ設立。97年エム・ディー・エム(現楽天)を設立。04年Jリーグ・ヴィッセル神戸のオーナーに就任。同年はプロ野球界にも参入し、東北楽天ゴールデンイーグルスを誕生させた。08年1月球団オーナーから退任、球団代表取締役会長に就任。12年8月から球団代表取締役会長兼オーナー。

▷ほこりより小さい人生

あれから10年。三木谷氏が95年に日本興業銀行を退社し、自ら会社を起こすきっかけになった運命の日がある。1月17日。阪神・淡路大震災が故郷の兵庫を襲った。

三木谷 発生時は東京にいました。翌日帰って(神戸市)須磨の公民館に行った。おじさんとおばさんの家がぺっちゃんこになって、2人が亡くなったこと自体もショックだったんですけど、それよりも、おびただしい数の遺体がね。

毛布で巻いてバーっと並んでいるのを見た時、言い方悪いけど「オレは死ぬな」と。宇宙の歴史から見れば、オレの人生は、ほこりよりも小さいということ。これは真実じゃないですか。だから、一生懸命やろうと思うのか、どうでもいいやと思って敗退していくのか考えると、思い切って前向きになってやった方がいい。

結局、後悔しないで死ぬってことの方がいい。ま、その後悔しないってところに、家族的な愛を求める人もいれば、安定性を求める人もいるだろう。でも、自分にとって後悔しないのは、挑戦し続けることだろうって。

運命の日の直感を挑戦の原動力にした。ビジネスも「物事を俯瞰(ふかん)で見た時の、直感力を信じた方がいい」という。

三木谷 野球界にも直感、ありましたね。なんで儲からないんだろう。これだけメディアに取り上げられているのに、どうやったら数十億円も赤字になるのかって。

媒体価値は必ずある。価値をどうやって売り上げに変化させるのがポイントじゃないですか。例えば、ものすごいきれいな絵があったとして、この絵は1万円の価値しかないっていう人と、見方によって5億円の価値があるという人がいたりする。

コンテンツ(中身)はいいけど、価値が上がらないなら、やり方を変えればいいんじゃないかと。

東北へあいさつ回り。大名行列=2004年9月30日

東北へあいさつ回り。大名行列=2004年9月30日

▷4つの仮説

興銀退社後、96年にコンサルティング会社を設立。97年に楽天の前身会社を設立し「楽天市場」を開始する。社員は三木谷氏を含めて2人。「インターネットモール」を思いついたが、当時、いくつか大手企業が失敗を繰り返していた分野だった。

三木谷氏は直感で、インターネットの4つの仮説を立てた。

■簡単、便利になる

■爆発的に普及する

■物を買うようになる

■流通が変わる

当時そこまで予想するものはいなかった。仮説は全て現実となり「楽天市場」は流通を変えるショッピングモールに成長した。

三木谷 僕には『日本のプロ野球は必ず人気が復活する』って、仮説があるんです。

みんなどっちかというと、大リーグにいい選手をとられちゃってダメだって感じでしょ。そうじゃなくて、日本のプロ野球は必ず人気が復活する。

その根拠は単純で。日本の歌謡曲もJリーグも、みんなそうだった。人気が復活したでしょ。歌謡曲は一時、USポップに押されて洋楽ばっかり聞いていた。それが90年代になって、Jポップが見直されて大ブームになった。

Jリーグはヒデ(中田英)が、セリエAに行ってテレビが放送する。最初のうちは日本人が出ていればおもしろいけど、日常化したら、そうじゃなくなる。そうしたら自分のチーム。実感できるチームが欲しくなりますよ。地元チームが勝つと喜びが生まれる。浦和がいい例。日本の野球も、身近にしてあげれば必ず人気が復活します。

▷読売も「東京読売」で

03年12月、Jリーグ神戸の営業権の譲渡を受け、再建に立ち上がった。人気選手イルハンを獲得するなど「地元神戸」のJクラブの危機を救う。プロ野球参入を否定していた三木谷氏が数カ月後、手を挙げた。東北で地域密着を旗印に。

三木谷 (プロ野球も)地域密着型が当たり前だと思うんです。それ以外に何があるっていうんですか? 読売は違うかもしれないけど、読売と阪神以外は、地域密着以外ないと思う。

本音を言えば、読売も「東京読売」でやってもらいたい。東京だけでもGNPの60%あるんですから。(小声で)東京だけでやればいいんですよ(笑い)。それに最近は「地域一体」と言い直している。1つになってやっていこうよって。

キャンプの1コマ。マシン打撃に挑戦=2005年2月12日

キャンプの1コマ。マシン打撃に挑戦=2005年2月12日

自宅の6畳間で始めた楽天も、東京・六本木ヒルズに4000坪のフロアを持つ企業に成長した。旅行代理業、証券、金融など買収、合併の成果もあり、グループの年間流通総額は8000億円に達する。数年前から「06年までに流通総額1兆円」の目標を掲げる。到達すれば「1兆上がり」で身を退く考えもあった。

10年までに経常利益1000億円に目標を修正した。03年度44億円で途方もない数字だが、目標を掲げると、悔いなく前に進む力がある。運命の日から10年。球界参入も悔いなく生きる三木谷流だったのか。

▷「僕たちが一番いい」

三木谷 まあ、そうかもしれないけど、別に後悔しないってより、大局的に見れば、参入自体はたいした話じゃない。重要なことは、僕たちのやることが絶対一番いいオプションだって、強い信念持ってますから。

インターネットモールも、最初はダメダメダメって言われました。今度は野球界で、プロ野球ビジネスも成功するっていうのを見せていかないと。僕たちは日本を元気にするためにこの会社やっているんだから。

「日本を元気にする」。これは楽天創業時からの目標だった。インターネットモールへの出店で生き延び、急成長した小売り店もある。大型店舗に押されていた店や農村、漁村に元気を与えたのだ。

転換期を迎えたプロ野球界も、21世紀をさまよう「小売業」にすぎない。野球しか売り物はないのだ。そこに、三木谷が率いる楽天がどんなきっかけを作るのか。運命の年がいよいよ始まる。