陸上競技の世界選手権が4日(日本時間5日未明)にロンドンで開幕する。連載「原点から世界へ」では、世界へ挑む注目選手のルーツを探る。第1回は男子マラソンの川内優輝(30=埼玉県庁)。レース前日にカレーを食し、本番で死力を尽くす男は、いかにして今に至ったのか-。

 20年前。当時小学生の川内は、夕刻の埼玉・加須市の公園を歯を食いしばって走っていた。1周約450メートルのコース。母美加さん(53)がストップウオッチを手にする中、フラフラになっても、足を前に運び続ける。荒天と風邪の日を除き毎日、1~3キロのタイムトライアル。それが日課だった。美加さんは回想する。

 「アメとムチ。いいタイムが出たら、それで終わり。自己ベストを1秒でも出したら、その時に食べたいもの。飲みたいものを買ってあげる。でも自己ベストから遅れると、1周追加とかの罰ゲーム。その時からゴール後、よく倒れていたりしていましたね」

 力を出し尽くす原点は、母子の特訓で培われた。当時、川内は鷲宮クラブに所属する野球少年でもあった。練習からクタクタで帰っても、その日課だけは欠かさなかった。いつまでもタイムを切れず、車で帰途に就く母をよそに、公園に置き去りにされたこともあった。美加さんは「今ならそんなことは絶対にできない」と苦笑いする。特訓は小学1年から6年まで続いた。

 春日部東高に入学すると、レース前日にカレーを食べるルーティンが始まった。同級生に、後に早大1年時から箱根駅伝6区を走った絶対エース高橋和也さんがいた。川内は度重なるけがで満足に走れず、下級生時は高橋さんのサポート役が多かった。川内は「練習ではいい勝負ができても、本番では差がつく。レースへの集中力が高かった」と振り返る。5000メートルの自己記録は約1分も違った。追いつきたいとの一心だったある日、高橋さんがレース前日にカレーを食べていると知った。理由はよく分からなかったが、まねをした。以来、大事な勝負前の儀式となった。

 世界選手権は日本代表として挑む最後の舞台と位置付ける。競技人生の集大成をぶつける。【上田悠太】