男子400メートルリレーで日本が世界選手権初の銅メダルを獲得した。多田修平(21)-飯塚翔太(26)-桐生祥秀(21)-藤光謙司(31)で臨み、38秒04の3位。全体6番目だった予選の38秒21から修正した裏には、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)が負傷するアクシデントに加えて、2つの賭けがあった。予選からアンカーをケンブリッジ飛鳥から藤光へ交代。バトンパスでは受け手がスタートを切る目安の距離を長く設定していた。

 目を疑う展開で、日本は世界選手権でこの種目初となるメダルを獲得した。アンカーの藤光がバトンを受けた時点で4番手。前には英国、米国、そしてジャマイカのボルト。だが、次の瞬間、世界最速男の左足が止まる。もん絶し、倒れ込んだ。それを横目に藤光が英国、米国に次ぐ3着でゴールを駆け抜けた。

 運だけでは片付けられない。バトンミスが続き全体6番手だった予選から修正するため、2つのギャンブルに出た。それに成功したからこその銅メダル獲得だった。

 (1)アンカーの変更 決勝約6時間前の午後4時。苅部、土江、小島コーチが話し合っていた。議題は予選のまま、アンカーにケンブリッジを起用するかだった。日本選手権で右太もも裏を痛めていた。急ピッチで調整したが、予選ではリオ五輪で見せたような力強さはなかった。

 午後4時15分。苅部コーチが藤光を呼んだ。「足の状態」「心の準備」などを確認した。7月の山梨合宿から3走の桐生とバトンパスの相性がいい31歳のベテランは、個人種目で出場がなくとも、いつ起用されてもいい準備を整えていた。

 午後4時35分。選手、スタッフのミーティング。苅部コーチが「走順を変えたい」と伝えた。藤光のアンカー起用が決定。この時、ケンブリッジはサポートに回ることを告げられた。

 (2)バトンパスの修正 予選ではバトンパスで選手間の距離が詰まった。決勝はリスクを犯して、受け手が始動するタイミングを示すマークまでの距離を長くした。お互いがスピードに乗ってバトンを受け渡せる利点もあるが、届かない危険性もはらむ。「1番か8番かの攻めのバトン」(桐生)。多田→飯塚→桐生はそれぞれ半足長(約14センチ)伸ばした。

 桐生→藤光は未知の距離だった。山梨合宿では30・5足長、レース前のサブグラウンドでの練習は31足長だった。しかし、桐生は「伸ばしても届かせます」と31・5足長を提案。藤光は「信じて思いきり出るよ」と返した。結果は吉。スムーズにバトンは流れた。

 予選の38秒21から決勝で縮めた0秒17に日本の強さが凝縮されていた。【上田悠太】