〇まだ続くのか、延期大会

この夏の日本代表選手が決定し、いよいよ始まる! と準備していた矢先に、中国での杭州アジア大会と世界ユニバーシティー大会が延期される知らせを知った。

真っ先に今季の代表選手の顔がよぎった。

2020年、オリンピックが延期となり、喪失感、絶望感、悲愴(ひそう)感…。

あの感情の名前は今でも見つからない。

あの感情に選手は再びなったであろう。そう感じた。

あの2020年の時でいうと、私自身は真っ先に引退を考えた。もう頑張れない。自分の可能性はない。そんなふうに悲観的な考えしかできなかった。

誰が悪いわけでもないが、やり場のない怒りの日々だった。やはりそんな時に力を貸してくれたのは、日ごろ近くにいるチームメート、試合会場で会う仲間だった。

会えない分、連絡を密に取り合って、今どんな状況で、どんなことをして過ごしているかを伝え合った。

そんな中を過ごしていくうちに、私の考えに変化があった。

○自分でコントロールできないことに執着しない

正直、新型コロナウイルスは、私たちがコントロールできるものではない。

コントロールできることといえば、自分のことしかないのだ。

これは試合の時も同じで、相手がどんな調子か、どんな気持ちでレースするのかを、招集所で考えてしまう選手もいるだろう。これも同じで、人の気持ちをコントロールすることに集中がいってしまっている。この時点で、自分のことに集中している時間ではなくなっている。

自分の心情を読み取り、素直に受け止め、自身の良いと思う状態に戻す=コントロールすることが、この時代は特に必要であるのではないかと考えるようになった。

これは今、私が指導している選手にも話をしている。試合前の調整期間や、試合の会場で、自分の余裕がなくなると、この気持ちは発動しがちだ。

私自身も選手時代に、自分をコントロールする能力が高い時もあれば、低い時もあった。低い時は決まってレース後に悔いが残る。「招集場から負けていた」「集中できていなかった」と思う。

試合が少なくなっている中、チャンスの時に高いパフォーマンスを発揮するには、この能力を普段から上げておくことが必要だ。

今、指導している選手には、日ごろからレース形式の練習を取り組むようにして、自分のコントロール能力を養ってほしいと考えている。

◆清水咲子(しみず・さきこ)1992年(平4)4月20日、栃木県生まれ。作新学院高-日体大-ミキハウス。本職は400メートル個人メドレー。14年日本選手権初優勝。16年リオデジャネイロ五輪は準決勝で日本新の4分34秒66をマーク。決勝に進出して8位入賞。17年世界選手権は5位に入った。21年4月の日本選手権をもって現役引退した。今後はトップ選手を育てる指導者を目指し、4月からは日体大大学院に進学。同時に水泳部競泳ブロック監督も務める。