2012年ロンドンオリンピック(五輪)バレーボール女子で銅メダルを獲得した元日本代表の新鍋理沙さん(30)の瞳から涙がこぼれたのは、急性骨髄性白血病と戦う少年との交流について尋ねた時だった。

引退した新鍋さんに、11月末にオンライン取材をお願いした。その最中、パソコンの画面越しに、涙が光った。

鹿児島県霧島市出身の新鍋さんは、宮崎・延岡学園高卒業後に久光製薬スプリングス(現・久光スプリングス)に入団。攻守の両面で存在感を発揮し、特にサーブレシーブは随一の腕前。久光でも、東京五輪を目指す日本代表でも欠かせなかった。右腕のけがと向き合いながら、来夏に延期された五輪で納得のいくプレーができるか。悩んだ末に今年6月引退を発表した。

そんな新鍋さんに、小学6年生の松本歩夢君は白血病と闘う勇気をもらった。サーブを打つときの構えやコート上で見せる笑顔がすてきでファンになった。「相手どうこうではなく、今は目の前の自分たちでやるべきことをやって、次に向けてしっかり準備していきます」という新鍋さんの言葉を自分の境遇と重ね合わせ、闘病中に不安な気持ちになっても前向きになれた。18-19シーズン終了後のファン感謝祭に参加した歩夢君の母が、新鍋さんに手紙を届けた。

「笑顔でがんばっている新なべせん手が大すきです。ぼくもびょうきに負けずがんばります。元気になっていっぱい応援したいです 歩夢」。

歩夢君の母も手紙を書いた。わが子が抗がん剤治療がうまくいかず移植するかどうか迷っていた時、息子が治療を頑張る力をもらった-。文面は感謝でいっぱいだった。

当時を思い返して涙ぐむ新鍋さんの声は、かすかに震えていた。「試合を見て(移植を)決断したというのが書いていて、私泣いちゃって…」。SNSで歩夢くんの母を見つけ、後日メッセージを送った。ファンに自分から連絡を取るのは初めてだった。手紙をもらったことへの感謝を伝えるため、居ても立ってもいられなかった。

「簡単に頑張ってとは言えないですけど、少しでも頑張ろうと思ってもらえるように、力になれるように頑張ります」。自分の伝えたい思いを込めた。

歩夢君との出会いについて、新鍋さんは「私なんかでも誰かのことを前向きにさせることができるんだなと思ったし、私自身も勇気をもらいました。(バレーを)やってて良かったなと思った瞬間でした」とひときわ感慨深そうに話した。

新鍋さんがバレーボール選手としてプレーする姿は、歩夢君に大きな影響を与えていたことが取材を通じて実感できた。6月末の引退会見を見た際にも歩夢君は涙をこらえながら「新鍋選手のおかげで心が折れそうなとき、自分に負けない強さを持てました」と語った。競技に打ち込む新鍋さんの姿を見たことで何かを感じ取るファンも少なくなかっただろう。

新鍋さんの下には今でも「辞めても応援しています」といったファンからの温かいメッセージが後を絶たない。コートを去っても根強く愛されるゆえんを知った気がした。【平山連】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

◆平山連(ひらやま・むらじ)千葉・市川市出身、地方新聞社を経て20年1月入社の29歳。バレーボール、サーフィン、アーチェリーなどを担当中。