現役アスリートを悩ませる性的な撮影や画像の拡散をどうやって防ぐのか。「盗撮罪」が刑法にはないため、現状では民事での対処が現実的だ。性暴力問題などに詳しい上谷さくら弁護士から話を聞いた。

法務省が設置した性犯罪に関する刑事法検討会委員の上谷弁護士は、スポーツ界からも対策を講じようと動きだしていることを歓迎している。「これはアスリートに限らない問題です。1人1台カメラを持ち歩いてSNSですぐに投稿できるようになる中、人々の権利意識が高まっている」と受け止める。

現在の刑法には「盗撮罪」がない。不快な撮影画像がネット上に拡散されても摘発するには各都道府県の迷惑防止条例に頼らざるを得ないが、この条例では対象となる行為や刑の重さが異なり、比較的軽い刑になる傾向がある。一方新たに刑罰に組み込む場合、盗撮行為をどう規定するか。検討委の間で問題意識は共有しており、何らかの法律を作るため今後どんな条文にするかなど検討していくという。

もしもネット上で盗撮画像を見つけた場合は現状どうすべきかについて、上谷弁護士は「まずは投稿者に削除要請をしたうえで、応じない場合は訴訟を起こすことも選択肢」。誰が投稿しているか分からない場合は運営会社へ開示請求することから始まるので「時間もかかるし、お金もかかかる。競技に打ち込む現役アスリートが手間暇を掛けてやるのは難しい」と話す。

だからこそ、競技団体など周囲の全面的なサポートが欠かせない。訴訟費用を負担するといった対応策を挙げて「アスリートたちが人生を懸けている場面を汚されるのは、最大の不利益。表現の自由は健全な民主主義と自己実現のためにありますが、自己実現のために自分がやりたいことを何でもやっていいわけではありません」と主張した。【平山連】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)


○…日本オリンピック委員会(JOC)の特設サイトには、今も情報提供が絶えない。JOCなど7団体が昨年11月に「アスリートの盗撮、写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は卑劣な行為です」との共同声明したことを皮切りに、被害の実態把握に向けてサイトを開設。2月16日までに807件が寄せられているといい、JOCの籾井圭子常務理事は「これをしっかり分析して関係機関としっかり議論を深めていく」と話す。

悪質な画像や動画の投稿を続けるSNSなどのリンク先を送ってもらっており、画像を販売している情報提供なども寄せられているという。籾井理事は「アスリートたちを悩ませる卑劣な行為であることを社会に発信したことで、この問題が多くの方に認知していただいた」。情報提供も継続して行いつつ、今後は各競技会場での具体的な取り組みなど集めて課題を探る考えだ。