レスリングの全日本選抜選手権は東京・駒沢体育館で16日に最終日を迎え、女子57キロ級の決勝で2人の五輪女王が雌雄を決する。五輪4連覇の伊調馨(35=ALSOK)とリオデジャネイロ五輪金メダリストの川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)はともに15日の1次リーグ、準決勝を勝ち抜いて決勝に駒を進めた。

昨年の全日本選手権では1次リーグで川井、決勝では伊調が勝ち、過去の対戦成績は伊調の4勝1敗。今大会で伊調が優勝すれば世界選手権(9月、カザフスタン)代表に決まり、そこで表彰台に上がれば東京五輪代表に決まる。川井が勝てば7月6日のプレーオフで2人が再戦し、世界代表を決めることになる。

15日の試合では伊調には課題が露見した。3試合を戦い目立ったのは足を取られる場面。伊調と言えば、相手に足を触らせない抜群の守備力、タックルに入られた所から逆にコントロールして得点を重ねるカウンターが1つの武器だったが、昨年10月にリオ五輪以来の復帰を果たしてからは、様子が異なる。タックルに入り、相手のタックルが届かない自分の距離感で戦うことが勝利の近道だが、準決勝までの勝ち上がりでは、足を持たれ、なんとか寝技で切り返す展開が続いた。加齢による反応速度の低下などがあるのか、伊調本人も「やはり練習と試合のギャップというか、練習通りにというのは本当に難しい」と痛感する。自分からタックルに飛び込む場面も少なかった。

対する川井は、どんどん懐に飛び込む自慢の攻撃力は準決勝までは見られなかった。「内容が良かったかと言われるとそうでもない」との振り返り。世界選手権代表権をつかむには、伊調馨にプレーオフまで連勝しなければならない。「結果が求められる大会」との思いは強く、同門の至学館大の選手との試合が多く、互いに手の内を知るだけに、大技に入るリスクを冒すよりは、確実に組み手争いで優位に立つことを重視したとみられる。それが慎重な姿勢に映った。

互いに反省点を抱えたまま、どちらが変化を持ち込めるか。昨年12月の全日本選手権の2度の対戦は1勝1敗だったが、展開は似ていた。組み手争いに終始する展開から、相手の消極的姿勢を印象づけて点数を重ねていったのが川井。伊調はタックルに入る機会をうかがい続けたが、積極的なアクションは出せずに時間が経過した。技の得点がないロースコアの接戦。決勝では残り残り20秒で決死の片足タックルを見舞った伊調が3-2で勝利した。今大会も両者が似たような展開を繰り広げるか。

伊調は守備面の不安がある中で自らアクションを起こせるかどうか。逆に伊調の守備面での苦戦を目の当たりにした川井が飛び込めるかどうか。伊調は準決勝後に「(タックルに)入る勇気があれば、それが得点につながっているので、あとは自分が勇気を持っていけるかだと思います」と見据えた。それは川井にも言えること。リスクを恐れずに仕掛ける勇気が試される決勝になる。