<柔道:全日本選抜体重別選手権>◇初日◇12日◇福岡国際センター

 ロンドン五輪代表最終選考会で、吉田秀彦の愛弟子が輝いた!

 男子66キロ級は昨年世界選手権優勝の海老沼匡(22=パーク24)が3連覇を飾り、五輪代表を確実にした。決勝ではライバルで10年世界王者の森下純平(22)に一本勝ち。92年バルセロナ五輪78キロ級金メダルの吉田秀彦監督(42)率いるパーク24に今春入社した愛弟子が、師匠にうれしい勝利を贈った。代表は今日13日の強化委員会で決定する。

 師匠から差し出された手を握り返すと突然、頭をはたかれた。その行為で、海老沼の硬かった表情が思わず和らいだ。吉田監督流の手荒い祝福。「お疲れ」とねぎらわれて、満面の笑みが浮かんだ。手にした3連覇のタイトルは、ロンドン五輪への確かな切符。「夢は五輪で金メダル。代表に近づけたかな」。柔道一直線の男が、素直に喜んだ。

 勝負の1回で投げきった。宿敵森下との決勝戦。過去2戦2敗の相手に、組み手で力負けした。思うように技が出せず、一進一退。互いに1つずつ指導を受けた。だが、残り55秒、体が練習通りに動いた。内股をちらつかせながらの、豪快な支え釣り込み足。「今日の自分は負けを怖がって楽しめなかった。1回で投げただけです。ただ、掛けたからには一本にしたかった。これで人生が変わるんだと思った」。強い思いが、一本勝ちに導いた。

 五輪を懸けた大一番。体も心も硬かった。試合前は珍しく「オレはできる!」と、何度も自分に言い聞かせていた。押し寄せる緊張の波。解いてくれたのが、吉田監督だった。決勝前は「泣いても笑ってもこの一戦だ。思い切ってやってこい」と送り出された。

 柔道私塾・講道学舎の先輩にあたる吉田監督に憧れて今春、兄聖(さとる)もいるパーク24に入社した。兄と行う出稽古合宿には監督も、時間を割いて付き添ってくれた。「打ち込みから何から見てくれた。稽古熱心な弟が嫌になるくらい追い込んでいた。最後まで出し切らせていた」(聖)。初戦は、監督直伝の内股で一本を奪った。鬼の練習で染み込んだ数々の技が、五輪をたぐりよせた。

 柔道一家の海老沼3兄弟の末っ子は、長兄聖の背中を見て柔道を始めた。その兄が昨年の世界選手権前から自身の練習を犠牲にして、付き人になってくれた。2月には胸骨の剣状突起を骨折。寝ることも苦しく、練習は1カ月できなかった。体重も人生最大の75キロに増量。そんな焦りは兄嫁で管理栄養士の里佳さんの、朝昼晩の減量しやすい食事に救われた。柔道は監督、土台は家族が支えてくれた。「代表になっただけじゃいけない。ここがスタートです」。師匠と家族と、もっとも光り輝く色を追い求める柔道が、始まった。【今村健人】

 ◆海老沼匡(えびぬま・まさし)1990年(平2)2月15日、栃木県小山市生まれ。5歳で柔道を始める。講道学舎に入るため小学校卒業後に上京。世田谷学園高-明大から今春パーク24へ入社。昨年世界選手権優勝。得意技は背負い投げ。家族は両親と兄2人。170センチ。