2季連続道大会準優勝の北海道栄が、3年ぶり出場の北広島に9-0で7回コールド勝ち。北海道日大時代の1975年以来、夏は41年ぶりの甲子園出場へ好発進だ。4月に父を亡くした5番上西孝希(3年)が、悲しみを乗り越え2安打3打点で攻撃をけん引した。

 ピンチになれば空を見上げ、チャンスにはユニホームのポケットに忍ばせた家族写真を、そっと触る。見えない力が、沸いてくる。1回、いきなり4連打で3点を先行した北海道栄は、5番上西に打席が回った。「真っすぐが抜けてきたので、コンパクトにバットを振った」。3者連続となる適時打を左前へ運び、この回、一挙5点のビッグイニングにつなげると、6回2死二、三塁では左中間フェンス直撃の2点二塁打。この日、チームトップの3打点をたたきだし、ポイントゲッターの面目躍如だ。

 今年4月、18歳の誕生日を祝ったわずか1週間後に、父則之さん(享年59)ががんで亡くなった。大阪出身で「野球の技術と人間力を磨きたい」と北海道栄への進学を希望した時、反対する母を父が説得してくれた。阪神ファンの父に連れられ、高校野球やプロ野球を見に、何度も甲子園へ通った。

 病気を知ったのは、昨年の正月休み。がんは全身に転移していたが「うれしいことがあると小さくなることもあると聞いた。甲子園に出場して喜ばせば、がんがなくなるかもしれない」と信じていた。昨秋の全道大会では決勝で札幌第一に敗れ、あと1歩のところで逃した甲子園。「簡単に行ける場所じゃない。負けて学ぶこともある。最後の夏に行くのが一番いい」。父と交わした最後の言葉だった。

 今夏は「父が近くにいるような気がする」。この日、放ったフェンス直撃の二塁打は「(本塁打を打つには)もう少し頑張れってことでしょう」と苦笑い。今年2月に受け取った家族写真で、父は柔らかい笑みを浮かべている。「甲子園へ行って、活躍したい」。19日準々決勝の相手は、秋に敗れた札幌第一。思い出の地、甲子園へたどり着くまで、負けるわけにはいかない。【中島宙恵】