<2000年7月2日付日刊スポーツ紙面から>

 「17歳」の日本人は、約151万人。その中に、シドニー五輪に出場する6人もいる。水泳平泳ぎの新エースで私立本郷高3年の北島康介は1日、東京・豊島区の同校で行われた五輪壮行会で「決勝に残ったらテレビに映るので、応援よろしく!」と決意表明した。現時点で10代の五輪選手は、17歳の水泳・山田沙知子、卓球・藤沼亜衣、新体操・稲田亜矢子らをはじめ、計20人。ティーンエージャーの暴走がクローズアップされる中、17歳のオリンピアンにスポットを当てた。

 白いシャツ、黒いズボン、少しかかとをつぶした革靴。3年1組の北島が朝礼台に上ると、中高合わせて1700人の生徒から拍手が起きた。気温30度を超えるグラウンドには、男子校ならではの汗のにおいが充満した。北島がマイクを握ると、12〜18歳の少年たちが、校内一の有名人に耳を傾けた。

 北島

 こんにちはっ!

 生徒

 ちはー!

 北島

 紹介があった通り、オリンピックに選ばれました。決勝に残ったら、テレビに出ると思うし、見てくれればうれしいです。応援よろしくお願いします!

 17歳の北島の視野には、シドニーしか入っていない。同年代の凶悪犯罪が社会問題になっていることは、もちろん知っている。しかし「関係ないですから、あまり気にしていません」。この日も壮行会後は、プールに直行した。「たまに遊んでみたいなって思いますけど、でもオリンピックは、それより大きいものですから」。自分にとっての五輪、日本代表を、そう表現した。

 同年の山田沙知子の場合は、社会問題について自ら話題に切り出すほど、強い関心を持っている。「最近は17歳の犯罪が多いやないですか。めっちゃ、むかついてるんです。そんな17歳ばかりやないことを知ってもらいたい。17歳がみんなそう思われるのは嫌」。自分のため、そして同世代のために、五輪舞台での自らの頑張りで、社会のイメージと違う「17歳」を証明しようとしている。

 平成10年度青少年白書(総務庁)は、現代青少年の問題点として「忍耐力がない、我慢ができない」「自己中心的である」などを挙げた。しかし、山田の言葉や次のような本郷高水泳部顧問・三好修教諭の北島評は、白書の青少年像と大きな隔たりを感じさせる。「北島はメンタルな部分がしっかりしています。大きな大会に出ても、動じない強さがあるんですよ」(三好教諭)。

 北島のクラスメートたちは、仲間の1人が五輪出場することについて「思ったより普通の気分。普通すぎる」と声をそろえた。担任の西川路健児教諭は「自分がチャンピオンになっても、威張る生徒じゃないんです」。7日からは期末テストが始まる。遠征などで授業を欠席することが多い北島には、仲間のサポートが欠かせない。ノートをコピーしてもらったり、リポートを手伝ってもらうことも。北島の五輪は、こうした仲間たちにも支えられている。

 もちろん、才能、努力において、17歳オリンピアンは特別な存在。北島自身、昨年8月には日本代表にも選ばれない無名選手だったが、4月の日本選手権で第一人者の林享(あきら、25=中京大大学院)を破って新エースに躍り出た。短期間で急成長を遂げることも、10代の魅力の1つ。シドニーで、151万分の6の彼らはどんな顔を見せてくれるだろうか。