<水泳世界選手権:競泳>◇7月31日◇イタリア・ローマ

 【ローマ=高田文太】競泳男子200メートル背泳ぎ決勝で、入江陵介(19=近大)が1分52秒51の日本新記録で、銀メダルを獲得した。従来の世界記録1分53秒08を上回り、日豪対抗で出した「幻の世界記録」1分52秒86も更新したが、驚異的な世界記録1分51秒92を出したアーロン・ピアソル(米国)に屈した。五輪、世界選手権を通じて初めて表彰台に立った経験を生かし、今後は大舞台での勝負強さを身につけて、3年後のロンドン五輪で頂点を狙う。

 ピアソルが持つ従来の世界記録を破る1分52秒51をたたき出したが、入江は負けた。「自己ベストはうれしいけど、やっぱり一枚上手がいた」。隣の4コースでは、ピアソルが1分51秒92の驚異的な世界記録をマークし、喜びを爆発させた。入江はコースロープにもたれながら、ぼうぜんとそれを見つめた。

 前半の100メートルをピアソル、ロクテに続いて3位で折り返した。得意の後半で追い上げるパターンが、150メートルではやや差が開いた。「少しピアソルに離されてしまった。攻めきれなかったかな」。最後の50メートルでようやく持ち前のラストスパートも、ロクテを抜くのが精いっぱい。ピアソルには届かなかった。

 五輪、世界選手権を通じて初めてのメダル獲得も、金色でなければ素直に喜べない。「メダルを取れてホッとしている」と言った後、「表彰台の一番高いところから(みんなを)見たかった」とすぐに悔しさがあふれた。12年ロンドン五輪のエースと期待された19歳が抱えた重圧は、計り知れなかった。

 古賀淳也の金メダルに沸いた陰で、4位に終わった100メートルは悔しくて仕方なかった。珍しくぶぜんとした態度で、ずっと遠くの一点を見つめいた。この日のレース後、「100メートルの古賀さんが1位を取ったので、自分もセンターポールに日の丸を、と思っていた」と思いを明かした。

 技術は文句なしだった。ライバルのピアソルも「僕が見た中で一番美しい背泳ぎだ」と絶賛したほど。水をとらえる技術が向上し、ストローク数は減った。バサロキックも、北京五輪時より体半分以上深く潜るようになり、課題だったスタートやターン時の出遅れが減った。敗れた100メートルも、フォームが崩れることを懸念した道浦コーチの「200メートルのための100メートル」という方針に従い、大きな泳ぎに徹した。事実上200メートル1本にかけていた。

 5月の日豪対抗で、当時の世界記録を1秒08と大幅に上回る驚異的なタイムをマークした。だが水着問題で6月に世界記録に公認されないと決まった。その間は「精神的にまいって練習できなかった時期が1週間続いた」という。その悔しさをぶつけ、「幻の世界記録」1分52秒86も上回った。それでも世界王者にはなれなかった。

 本当の勝負はロンドン五輪だ。「悔いなく最後まで泳ぎ切った」。複雑な表情を浮かべた日本のエースだが、この日、隣で感じた表彰台の中央への思いが、再出発につながるはずだ。