火の国が育てた「虎の一平ちゃん」が名実ともに名を残す。阪神からドラフト6位で指名された東海大九州・小川一平投手(22)が14日、熊本市内のホテルで入団交渉を行い、契約金3000万円、年俸700万円で仮契約を結んだ。

長めに伸びていた髪を「この日に向けて」とすっきり散髪。常に人に見られるプロの「仕様」にした。「ドラフトが終わった後に実感が湧いて、プロと契約したんだなと思いました」。ついに憧れの舞台へ足を踏み入れ、笑みを浮かべた。最速149キロで、フォークに似た軌道の「パワーチェンジアップ」を武器にする右腕。担当の田中スカウトも「真っすぐはもちろん。チェンジアップ、変化球もいい。先発を目標にやってくれたら。能力は十分にある」と期待を寄せている。

虎とは浅からぬ縁もある。神奈川出身ながら、大学時代を過ごす熊本は第2の「地元」。そんな熊本の大名・加藤清正は朝鮮出兵時に虎を退治した逸話から「虎之助」とも呼ばれた。「御利益があれば…」と笑う小川も、その武将を祭った熊本市内にある加藤神社を毎年参拝している。目指すは勇猛な先人のような活躍。対戦したい打者を問われると「広島の鈴木誠也選手。真っすぐで抑えたい」。セ界で待ち受ける強打者退治を思い描いた。

名前の「一平」から連想されるのは、明星食品から発売されているカップ焼きそば「一平ちゃんシリーズ」。多様な味がそろい、同社の主力商品として消費者に愛されている。「虎の一平ちゃん」は笑みを浮かべて「CMこないかなと。最近意識して食べています」と冗談交じりに逆オファーした。2週間に1度ほど口にしながら、身も心もプロ入りへ準備を整えている。地元の英雄のように、人気食品のように、長く熱く愛される虎戦士になる。【望月千草】(金額は推定)

○…小川は自身の活躍で熊本を元気づける。大学入学直後の16年4月に熊本地震で被災。通学で使っていた橋は崩壊し、周囲の山は斜面が崩落した。「今でも思い出します。日が出てきて見たら、落ちててびっくりした」。震災後、熊本出身の阪神岩貞が義援金や支援物資を送っている。小川は「(自分も)やってみたい。自分よりすごい事(被害)が起こった人もいる。1軍で投げて元気づけたい」と誓った。

◆小川一平(おがわ・いっぺい)1997年(平9)6月3日生まれ、神奈川県逗子市出身。逗子小2年で逗子オリーブスで野球を始め、逗子中では軟式野球部。横須賀工では3年夏の県大会2回戦で敗退し、甲子園出場経験なし。東海大九州では2年時に大学選手権出場。182センチ、80キロ。右投げ右打ち。

◆加藤清正 尾張(現在の愛知県)生まれ。安土桃山時代の武将で、豊臣秀吉の臣下として頭角を現した。武芸に秀で、賤ケ岳の戦いで活躍した「七本槍(やり)」の1人。朝鮮出兵で名をはせ、関ケ原の戦いでは徳川家康についた。後に肥後の国を領した。築城や治水の名手ともされ、熊本城を築いた。