男子100メートル予選で、サニブラウン・ハキーム(18=東京陸協)が日本勢の世界大会最速タイ記録となる10秒05(向かい風0・6メートル)をマークした。世界歴代2位の9秒69を誇るブレーク(ジャマイカ)に先着し、予選2組を1着通過。続くケンブリッジ飛鳥(24=ナイキ)は10秒21、多田修平(21=関学大)は10秒19で予選を突破した。日本勢3人がそろって準決勝に進出したのは、世界選手権と五輪を含めて初めての快挙となった。

 サニブラウンが男子100メートル新時代の口火を切った。号砲への反応は0秒167と8人中最下位。だが「あまり焦らず自分のペースでレースできた」と中盤でストライドを生かして加速した。ゴール直前、2レーンを走る18歳は一瞬、右を見た。大外9レーンにブレークが前を走っているはず。だが、いない。そのまま先頭で駆け抜けた。予選とはいえ、世界歴代2位の男に余裕を持って勝った。地鳴りのような声援が、衝撃の大きさを物語っていた。

 向かい風0・6メートルは予選6組中、最も悪条件だったが、タイムは全体6位タイの10秒05。世界選手権の日本勢最高タイムだった朝原宣治の10秒06(01年。風力計故障で記録は参考)を超えた。日本勢の世界大会最速タイムであるリオ五輪の山県亮太に並んだ。「逆に緊張しなくて、大丈夫かなと思いました。自分のレースに集中していた」と笑った。

 昔から追う立場になるほど強かった。小学生時代に所属していたアスリートフォレストTCで、リレーは決まって第2走者だった。意味がある。当時の恩師である大森盛一氏(45)は「トップで走ると手を抜くから」と苦笑いで回想する。ただ前に人がいれば、とにかく速かった。強い相手ほど自分の力も最大限発揮できる性根。だから大舞台に強い。15年の世界ユース2冠、史上最年少で出場した北京での世界選手権の200メートルでも準決勝に進んだ。この日朝は同部屋の男子400メートル代表北川から激励されると「予選で落ちる気は毛頭ないです」と言った。宣言通りで、タイムも自己記録タイだった。