先日、東京大学社会連携本部・東京大学スポーツ先端科学研究拠点特別シンポジウムに参加してきた。もちろん主催者は東京大学だ。

シンポジウムのタイトルは「大学スポーツの未来」。全学(東京大学)の多種多様な学術を集約し、スポーツ界に貢献していこうというのが目的だ。

「なんと心強い」。お話を頂いたときはそう感じた。


いまスポーツが注目されている、またその将来に期待されている証なのだと思う。さまざまな分野で、スポーツに対する関心が高まっている。そう感じることが増えてきた。


シンポジウムの第1部は「東京大学の先端技術によるスポーツを通じた社会貢献」だった。日本のトップサイエンティストが登壇し、アスリートの強化について話した。


登場した科学者5人のうちの1人、染谷隆夫先生(東京大学大学院工学系研究科教授)が語った「次世代ウェアラブルセンサ」の講演が印象に残った。

ウェアラブル電子機器とは、心拍数やその他の生体信号を計測するため皮膚に直接貼り付けるもの。その開発は近年著しく進んでいる。染谷先生は「医療やスポーツ分野での応用においては、1週間以上にわたる継続的な計測のための装着できるデバイスが必要であるとわかった」と述べている。

そこで開発したのが「ナノメッシュ電極」。皮膚パッチテストを20人に実施したところ、1週間装着した後も被験者に炎症反応は見られなかったという。人さし指に装着した電極の屈曲をを1万回繰り返しても性能はそのままで、機械的耐久性も証明された。

「ストレスや不快感なく使用者の生体信号を測れる」という言葉通りなら、スポーツ現場での科学分析で、より正確なデータが取得できるはずだ。

最新のテクノロジーが医療だけでなく、スポーツの現場にも応用されることで、さらに発展していければと感じた。


また、中澤公考先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)は「パラリンピックブレイン研究から選手強化へ」というタイトルで講演した。パラリンピアンの脳を解析してみると、通常使われない部分が活性化して、右脳・左脳の両方を使用して、運動能力を補っているという。これは、同じような障害を持つ方にも、健常者にも応用できる研究だと感じた。


拝聴しに行っただけではなく、私自身も登壇させて頂いた。

特別対談として「女性アスリートへの医療支援」で東京大学医学部産婦人科学教室の能瀬さやか先生と対談させてもらった。先生は国立スポーツ科学センターにも常駐したりして、女性アスリートに大きく貢献している方だ。


2012年まで現役だった私は、引退後の5年間で女性アスリートへの支援が大きく変わってきていることに感動した。東京大学病院での相談内容は「無月経」と「月経不順」が1位、2位を占めているという。これらは、月経随伴症状といわれ、パフォーマンスに大きな影響を与えるとの研究結果が出ている。つまり、月経前症候群(PMS)や、月経困難症より、アスリートの場合はパフォーマンスへの影響が一番の悩みだということだ。

無月経であると何が起こるかというと、疲労骨折につながり、競技寿命を縮める危険性がある。アメリカスポーツ医学会では「Low energy availability(エネルギー不足)、無月経、骨粗しょう症」を女性スポーツの三主徴と呼んでいる。つまり、月経周期異常はスポーツに必要なエネルギーが確保されていないサインだということだ。

私も能瀬先生と対談し、現在のリアルな話がエビデンス(科学的な根拠)をもって知ることができた。今後のスポーツ界へ大変必要な知識だと感じた。


今、スポーツ界は、少しずつ地殻変動を起こしている。スポーツに関わる身としては、多くのことを自分のこととして受け取り、エネルギッシュに進んでいくが必要だ。こんなことを感じたシンポジウムだった。

多くの先生方、貴重な機会をありがとうございました。


(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)