バレーボール男子日本代表のオポジット(スーパーエース)で名選手だった中垣内祐一監督(50)の口から、次々に褒め言葉が出てきた。

 「18歳で高校を卒業したばかりの選手とは到底思えないし、僕も18歳と思って会話していないです。体もできている。プレーもそうですし、話すこともそうですし、全く物おじしない。大きいブロックに『ドンッ』とやられたとしても、30歳に近い選手が発するようなコメントをしていますね。ですから『スーパー18歳』ですよね。素晴らしい才能だと思います」

 2018年6月7日。翌8日から始まる、ネーションズリーグ1次リーグ第3週大阪大会を前にしてのコメントだった。その対象こそが、同じオポジットである西田有志(18=ジェイテクト)。3月に卒業した三重・海星高では、全日本高校選手権(春高バレー)出場経験なし。身長2メートル超えの選手がひしめく世界で、186センチながら、この春に初めて日本代表入りした新星だ。

 バレーボールファンには知られた存在だったようだが、私は大阪大会が2度目の取材。詳しくないことを前提に、素直に思ったことを書いてみたい。まずは初々しさを感じた1コマ。第1週フランス大会、第2週ブラジル大会と連戦が続いたことによる、コンディションへの影響について西田が語っていた言葉だ。

イタリアに競り勝った感想を語る、日本の西田有志(撮影・松本航)
イタリアに競り勝った感想を語る、日本の西田有志(撮影・松本航)

 「全然、時差ぼけはないです。僕、これまでアジア圏にしか行ったことがなくて。初めて欧州やブラジルに行って、時差っていうのは逆に『面白いな』と思いました」

 世界各国を転々とするアスリートを数多く取材しても「時差が面白い」という言葉は聞いたことがない。

 「いや、なんか『日本より(欧州は)7時間も遅いんやなあ』って。国は違うけれど『1つのところに(自分が)いるのに時間が違うんだ』って、ずっと楽しかったです。でも、十何時間の飛行機とかは、きつかったです(笑い)」

 新社会人となったこの春に初めて、広い世界を知ったわけだ。この日、中垣内監督と選手は違う場所で取材対応を行った。その中で指揮官の言った「大きなブロックにやられた時のコメント」が偶然、西田の取材時にも本人の口から発せられた。その言葉は「初々しい18歳」ではなく、冷静な中堅選手のようだった。

 「強い相手とやるのは楽しいですね。自分の質を上げられる時間ですし、ブロックが高いのを、どういう風に対応して点数を取るのかっていうのが、できるようになったら、本当に楽しいと思う。『高いな』っていうのはあるんですけれど、それで受け身になって『高いから決まらへん』とは考えないので。そこはもっと『高いな。もっとこうしよう』という風にもっていっている。そういう時間があるっていうのは『本当にいいな』って思います」

 6月10日、大阪大会の最終戦となるイタリア戦。世界ランク4位の相手に対し、同12位の日本がフルセットの激闘の末に、同戦11年ぶりの勝利をつかんだ。

 0-1の第2セット。西田は21-20からジャンプサーブで相手レシーブをはじき飛ばすと、今度は触れることも許さない連続サービスエース。この2本のサーブで流れを一気にたぐり寄せ、息詰まる接戦において、スパイクでは計19得点を挙げた。終わってみれば両チーム最多の22得点。

 これにはイタリアの27歳、フィリッポ・ランザ主将(27)が「高さはないけれど、打つべきところを分かっている」とうなった。敵将のブレンジーニ監督にも「4セット目、5セット目は西田選手の方が、(イタリアの選手と比べて)どうすれば得点できるかの解決策を見つけた」と評された。才能はもちろん、この対応力が、小さなサウスポーの魅力なのだろう。

イタリア戦の途中、スクリーンを見つめる西田有志(右から3人目)柳田将洋(同4人目)ら日本の選手たち(撮影・松本航)
イタリア戦の途中、スクリーンを見つめる西田有志(右から3人目)柳田将洋(同4人目)ら日本の選手たち(撮影・松本航)

 そんな絶賛の嵐に隠れがちだが、イタリア戦2日前の8日、ストレート負けを喫した世界ランク14位のブルガリア戦で西田は悔しい思いをしている。第1セット。高いブロックの前にスパイクが決まらず、交代を命じられた。第2セット途中から復帰し、チーム最多得点を挙げたが、中垣内監督の評価は厳しかった。

 「スタートからあれ(再出場以降の出来)ぐらいやってくれないと、計算できない。あれぐらいで普通。『ちょっと引いてしまいました』と言っていたけれど、それではね」

 そこには「自分の気持ちとしては戦う気だったけれど、体は緊張していた」と国内代表デビューを振り返った18歳への、指揮官の並々ならぬ期待を感じる。プレーを見ているこちらも、自然と20年東京五輪で躍動する青写真を描いてしまうほど、ワクワクする。

 最後に1つ。激動の大阪大会3日間を終えた西田に「ブラジル帰りの連戦で、疲れは大丈夫でしたか?」と聞いてみた。西田はたくましい顔つきで言い切った。

 「逆にどんどん調子よくなってきました。でも、ケアをしないと、ケガにつながる。疲れていないと思っていても、体は疲れていると思う。しっかりとケアをしたいです」

 5日後の15日からは第4週ドイツ大会で3連戦。翌週の22日からは中国で3連戦を戦う。18年に新設されたネーションズリーグは、強豪国と多く対戦できる貴重な機会だが、移動と試合がほとんどで過酷なリーグになっている。首脳陣やスタッフの尽力は重々承知の上で、日程表を眺めながら「ケガだけはしてほしくないな…」と切に願った。怖いもの知らずの18歳だからこそ、周囲の温かいサポートを受け、日本の大エースとなる過程を楽しみに追いたい。【松本航】


 ◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。兵庫・武庫荘総合高、大体大とラグビー部に所属。13年10月に大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月から西日本の五輪競技を担当し、18年平昌五輪では主にフィギュアスケートとショートトラックを取材。