女子ショートプログラム(SP)首位の紀平梨花(18=トヨタ自動車)が国際スケート連盟(ISU)非公認ながら、日本女子で安藤美姫以来2人目の4回転ジャンプに成功した。3・19点の出来栄え点(GOE)を得るサルコーを決め、フリー1位の154・90点。合計234・24点で2連覇を飾った。アイスダンスは小松原美里、小松原尊組(倉敷FSC)が合計175・23点で3連覇。村元哉中、高橋大輔組(関大KFSC)が2位。競技終了後に紀平や男子優勝の羽生結弦(ANA)ら男女シングル3人、アイスダンスの小松原組、ペア1組の世界選手権(21年3月、ストックホルム)代表が決まった。

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強い志で歴史の扉をこじ開けた。今季初戦、新しい演目で臨むフリー。最終滑走の紀平は、静かなピアノの音色に乗り、速い回転軸で一気に回った。こだわりの4回転サルコーを跳びきり、氷を捉えた瞬間、会場が祝福の拍手に包まれた。

「跳ぶしかないという気持ちだった。今回は『やらない』っていう選択肢が私の中でほとんどなかった」

ISU非公認だが日本女子の4回転初成功は02年安藤美姫以来、18年ぶり。「あまり意識していなかったので初めて知った」とほほえみながら、シニアでは日本女子初の偉業を喜んだ。

「今回、一番決めたかったサルコーがきれいに決まってうれしいです。たくさんの方が見に来てくださった。その方々の笑顔が見たい気持ちが強かったです」

道のりは長かった。17年夏、ジュニアの有力選手が集った強化合宿で4回転サルコーを公の場で初成功。転倒を繰り返し、20本を超える挑戦の末に降りた。「後々の武器になれば」。その言葉から3年かかった。

世界中が新型コロナウイルスの影響を受けた今季、夏から秋にかけてスイスで練習を積んだ。06年トリノオリンピック(五輪)男子銀メダルのランビエル・コーチに新たに師事。18年ピョンチャン(平昌)五輪銀メダルの宇野昌磨らとチームメートになり、2~3時間の氷上練習に加え、週4回のトレーニングに励んだ。休日が明けると、軽々と4回転を跳ぶほどに地力がついた。

難しい状況下での今季初戦。ステップでジャッジと反対側にいくミスがありながらも、演技構成点は5項目中4項目で10点満点の9点台。高難度の4回転だけでなく、完成度が際立った。演技後、午後11時に差し掛かった世界選手権代表発表会見。トルソワ、シェルバコワらロシアの強力なライバルを意識しながら、ぶれないスタンスを示した。

「北京五輪に向けて4回転を試合で決めたい思いが強かった。『1歩(段階を)進めたな』っていう気はしています。ロシアの選手と戦っていけるような、もっと高い点数を目指して、世界選手権を頑張りたい」

目指す場所は22年北京五輪の金メダル。4回転を複数操るロシア勢に、堂々と立ち向かう。【松本航】

◆北京五輪の出場枠 シングルは男女各30枠。うち24枠が世界選手権の結果で各国に振り分けられる。1カ国最大3枠。世界選手権出場選手が3人の場合、上位2選手の順位を足した数字が13以内なら3枠、14~28なら2枠、29以上なら1枠を得る。前回平昌大会後の18年6月に予選方式の一部が変更となり、出場枠と同数の選手・組のフリー進出が条件に加えられた。アイスダンスは24枠、ペアは21枠あり、世界選手権の後には最終予選も行われる。