<テニス:全豪オープン>◇初日◇19日◇女子シングルス1回戦◇オーストラリア、メルボルン・ナショナルテニスセンター

 【メルボルン=吉松忠弘】38歳で世界184位のクルム伊達公子(エステティックTBC)が、2時間50分の死闘の末、惜しくも金星を逃した。気温36度の猛暑の中、同28位で第25シードのカイア・カネピ(23=エストニア)相手に、最終セットで3度のマッチポイントをはね返したが、4-6、6-4、6-8のフルセットで敗れた。しかし、大健闘で手応えをつかみ、試合後には5月の全仏、6月のウィンブルドンへの挑戦も表明した。

 38歳の心も体も、最後までくじけなかった。肌が焼けるような日差しと息詰まる死闘でも、クルム伊達は最後まで立ち向かった。結果は敗れた。しかし、今持てる力はすべて出し切った。「負けて残念だけど、いい戦いができた。(プレーの)感覚はもう戻ったと思う」。高らかに復活を宣言した。

 13年前と同じく、追い込まれても不死鳥のようによみがえった。第2セット終盤では右足にけいれんが襲った。それをものともせず同セットを奪った。最終セットには2-4で5度のジュースから一気に11ポイントを連取。3ゲームを連取し、5-4と抜き去った。5-6では3本のマッチポイントを握られた。がけっぷちに追い込まれても攻撃の手を緩めなかった。

 「勝ち負けを考えないで、1ポイントごと集中しただけ」。3本すべてはね返し、また追いついた。181センチから繰り出されるカネピのサーブは時速190キロ。クルム伊達のは150キロ前後だから40キロもの差がある。そのサーブを「試合中に対応できた。良く動けた」と、クルム伊達は変幻自在に返球した。

 昨年復帰してから対戦した選手の中で、カネピは最も世界ランキングが高く、昨年の全仏ではベスト8に入っていた。試合後、クルム伊達より15歳若いカネピは、まるで敗者のように、疲れ切った表情で驚きの声を上げた。「38歳なんて信じられない。私だったらできない」。

 96年全米以来、12年5カ月ぶりの4大大会挑戦を目標に、クルム伊達は昨年12月のオフは徹底的に体を鍛えた。96年に引退後も、趣味で水泳やマラソンをしていたことも体力を保つ要因となった。04年ロンドンマラソンでフルマラソンに挑戦し3時間27分40秒で完走。「マラソンをやっていて良かったと思う。疲れはなかった」と笑顔で話した。

 今後の目標も定まりつつある。「せっかくここまで来たんだから、フレンチ(全仏)、ウィンブルドンに挑戦したい。失うものは何もない」。昨年4月に「新たな挑戦」と復帰を宣言した。ゼロから出発し、わずか8カ月で、元日本の女王が世界最高の舞台に再びたどり着いた。