時計の針は、60分を過ぎた。大阪朝鮮高22-50報徳学園。万事休す、敗戦が濃厚。ただノーサイドの笛は、まだまだ聞こえない。タッチキックを出したあと、大阪朝鮮高フィフテーンはほえた。気合を入れ直し、ラストワンプレーに3年間の全てをかけた。高校日本代表候補で主将のCTB李承信(3年)は言う。

「下を向いている選手がいた。次にやるべきことに集中していこう、と」

ゴール前5メートルでラインアウトをキャッチすると、一気にゴールラインに迫ってモールを押し込む。持てる力をフル稼働させ「最後のトライ」を奪った。

歓声とともに、多くの視線がスタンドに向かって送られる。車いすに乗ってスタンドから戦況を見つめる朴開仁(3年)が手をたたいて喜んだ。タオルを掲げて、声援を送った。長い入院生活。負傷後初めての外出を心から楽しみにしてリハビリ生活を送っていた。

ロック朴開仁は夏場の練習中、頸椎(けいつい)を損傷した。全身がまひする重傷。立ち上がることはできなかった。しかし、懸命のリハビリで現在は上半身の感覚が戻ってきているという。

戦友の前で負けるわけにはいかない。試合前、李承信はスタンドに目を向けた。「試合前の円陣でスタンドを見た。肌が真っ白になって、ツヤツヤになってて。久々に顔を見て、頑張ろうと思った」。

全力を尽くしたが結果は敗戦。試合後にはロッカールームへ朴開仁が来た。久々の対面。部屋に入った瞬間、涙の音が一気に増した。だが、朴開仁に涙はない。みんなに会うために目標としていたこの日の外出。すでに力を出し切った。

大阪朝鮮高のプライドを持った魂は、あのときグラウンドに「16人」いた。記憶に残る、最後のトライシーン。押し込むモールの後ろには、もう1人の大阪朝鮮高戦士がいたに違いない。「3年生にとっても、1、2年生にとっても…。これは財産になる」。キャプテン李承信の言葉に、全てが詰まっていた。【真柴健】