【世界フィギュア秘話】三浦璃来・木原龍一ペア ボケツッコミに見た「りくりゅう」の強い信頼関係

愛称りくりゅう。この親しみやすい呼び名で、一気にその実力を知らしめ、知名度をあげたフィギュアスケートのペアが、充実のシーズンを終えました。北京でのオリンピック、モンペリエでの世界選手権などを取材した松本航記者が見て聞いて感じた、三浦璃来、木原龍一ペアとは―。

ストーリーズ

松本航

<22年フィギュアスケート世界選手権フランス大会>


ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(左端)(ロイター)

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(左端)(ロイター)

結成3季目ペア銀メダル

「りくりゅう」-。

フィギュアスケートのペアで結成3季目を駆け抜けた三浦璃来(20)、木原龍一(29)は今季、その愛称の認知度を劇的に高めた。

1年間の取材を通して、2人は数多くの印象的な言葉を残した。それは、どれも次の機会に質問をぶつけてみたくなるものだった。

「まだまだ、ここがゴールじゃない。4年後も、8年後も、目指したいです。ありがとうございました」

2022年2月19日、北京五輪(オリンピック)フリーの演技後だった。日本勢最高の7位入賞。取材エリアでの最後の質問に対して、木原が「8年後」と言った。29歳の選手は、開催地さえ決まっていない8年後の未来まで描いていた。

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

「2人」だからこそ魅力的で、難しい種目といえる。その理由を多くのスケート関係者から聞いた。競技者としての方向性、取り組む環境、資金面、互いの性格…。共に歩むための条件は、いくつも挙げられる。

どちらかが故障や体調不良に陥れば、2人そろっての活動が止まってしまう。団体競技のように「代役を抜てき」ともいかない。

それでもなぜ「8年後」まで見つめられるのか-。

深堀りできたのは五輪から1カ月ほど後になった。

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

『三浦さん以上』はもう見つかることがない

3月26日。フランス・モンペリエで行われた世界選手権で銀メダルを獲得後、現地でゆっくりと話を聞くことができた。理由を尋ねると、三浦が口を開いた。

「私は心が弱くなってしまう時がある。それを『自分が支えるから』と言って、本当にずっとポジティブな気持ちにさせてくれる。龍一くんから『4年後、8年後も、ずっと組んでいきたい』と言ってくれる。私も『ついていきます!』っていう感じです」

隣に座っていた木原は「氷から降りると頼りない部分が多いので信用できない」と笑わせると、真剣な目つきになって言い切った。

「氷の上でのパートナーとして『三浦さん以上』は、もう見つかることがないと思う。それが分かっているので、4年後、8年後っていうのが見えています。もう絶対に見つからないと思います。お互いがそれを分かっているから、お互い以上のパートナーに、もう出会うことはないから、それを言わなくても分かっているから、自然とそういう言葉が出てくるんだと思います。リンクの上では100%、120%…、それ以上の信頼があります」

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

2人の距離が縮まった2020年

2人の距離が大きく縮まったのは、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた2020年だった。

前年の夏に「りくりゅう」が誕生。カナダ最大の都市であるトロントから、50分ほどで着く新興住宅街のオークビルを拠点とした。2020年1月の出国後はコロナ禍となり、約1年3カ月の間、日本に1度も帰ることができなかった。

2人は支え合い、競技会出場が限られる中で基礎を積み上げ、さらに今季も使用したショートプログラム(SP)「ハレルヤ」やフリー「ウーマン」を磨いた。三浦は精神的な面で木原に助けられたと感謝する。

「コロナで練習ができなかった時は毎日、ふさぎこんでいました。(外出できるようになって)龍一くんとドライブをして海岸に行ったり、ナイアガラの滝に連れて行ってくれたり…。それは本当に気分転換になりました」

同じアパート。引っ越したばかりの頃は三浦の家に電子レンジがなく、食事を共にすることも多かった。今でも各自が料理を持ち寄り、スケート以外の話をしながら、同じ時間を共有することも多いという。

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(左端)(ロイター)

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(左端)(ロイター)

「基本的に僕はシーズン中、スナック菓子を食べない。でもたまに食べる時もあるんです。そういった時は三浦さんの前では食べないようにしています。チョコレートだったり、普段ちゃんと(三浦も)コントロールされているので…」

木原の“ボケ”を瞬時に察し、隣で笑顔の三浦が何度も首を横に振っていた。

「ごみ箱にね、殻がたまにあるんです! お菓子の!」

鋭いツッコミを受けて、相方は「この間食べたら、ばれました」と苦笑い。9歳差の2人は、そうして信頼し合う関係性を築いた。

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

ペアフリーで銀メダルを獲得した三浦璃来&木原龍一組(ロイター)

「まだ言わない」2人だけが知る夢

北京五輪銅メダルに大きく貢献した団体戦SPでは、努力が演技ににじんだ。

2人がそろって行うスピンがずれ、それでも要素をこなしながら修正したシーンがあった。木原は開口一番、堂々と言い切った。

「基本的にずれても、どっちかがアジャスト(調整)しようとかじゃなく、合うようになっています」

結成当初からコーチには「ツイストリフト、ジャンプはセンスかもしれないが、スピンだけは努力だ」と諭されてきた。ノルマを定め、スピンは「やりすぎてもやっている」と明かす。

華やかさが目立つペア競技だが、2人には日が当たらない場所で積み上げてきた土台がある。「りくりゅう」にしか分からない、築き上げた信頼関係がある。今季の全日程を終えて、木原は冷静に決意を示した。

「まだ言わないですけれど、自分たちの目標にしているものがある」

来季も、その先も-。「りくりゅう」だけが知る、夢を追う。