「かつてない難局は、かつてない発展の基礎である」。パナソニック(旧松下電器産業)創業者で『経営の神様』と呼ばれた松下幸之助氏の名言である。「困難に直面したときに必ず何ものかを生み出してきているのです」(『わが経営を語る』より)。世界恐慌に第2次世界大戦……かつてない難局を打開するための発想や改革が、その後の成長の基礎になったという。

今月に入って「9月入学」への検討が始まった。コロナ禍による長引く休校への不安を解消する打開策だが、もともと欧米や中国では秋入学が主流。年度周期を世界標準に変更できれば、留学生の往来もスムーズになるし、受験時期も大雪と風邪の季節を避けられる。大規模な制度改革が必要でハードルは高いとはいえ、コロナ終息後の発展の基礎になる可能性がある。

社会では一気にテレワークが広がり、これまで見過ごされていた仕事の効率化が加速している。学校ではオンライン学習が推進され、東京都では通信環境が整っていない家庭にパソコン端末などを貸し出し、通信費も補助するという。この試行錯誤の末の生活様式の変化は、障害者の社会参画を促し、介護離職者の増加などの社会の課題も同時に解決する力がある。

スポーツ界ではトップ選手たちが、自宅でできるトレーニングをSNSなどで次々と発信。外出制限で運動不足に悩む人たちと思いを共有している。2極化していたエリートスポーツと生涯スポーツの垣根が一気に低くなった。ロッテのルーキー佐々木朗希も5月5日に球団のユーチューブ公式チャンネルでストレッチを紹介した。きっとコロナ終息後はスポーツが私たちのより身近なものになっていると思う。

東京五輪・パラリンピックは1年延期が決まった。とはいえ3000億円以上と言われる追加経費の負担、新たなコロナ対策など課題は山積している。疲弊した日本社会の支持を得るためにも、今こそ知恵を絞り、過去の大会にとらわれない大胆な簡素化にかじを切る時だと思う。それが実現できれば、きっと新しい時代の五輪・パラリンピックの基礎になるはずだ。【首藤正徳】