全棋士の運命が交錯する3月。順位戦5クラスの昇級降級おさらい。藤井5冠と羽生九段はAB入れ違い 

【将棋コラム・ 観る将のつぶやき】競馬記者歴四半世紀、負けず劣らず将棋愛。二つの共通点は“読み”なのか!? アマ初段の免状を持つ記者が、つれづれにつぶやきます。

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岡山俊明

 愛読していたタブロイド判の「週刊将棋」が6年前に休刊して、何かと不便になった。ホットな棋戦情報は日本将棋連盟のホームページで収集しているが、○●の結果だけでは何とも味気ない。年度末のこの時期、週刊将棋では順位戦の大特集が必ず組まれていた。順位戦は全棋士が5つのクラス(A級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組)に分かれてしのぎを削り、A級1位が名人に挑戦する権利を得る。順位は棋士の番付のようなもの。順位戦のクラスが全ての対局料の基準となるので、クラスが上がれば給料も上がり、落ちれば下がる。数ある棋戦の中で、最も生活に直結するだけに重みが違う。A級在位29期の羽生善治九段のB1降級や、藤井聡太竜王(5冠)のA級昇級は大々的に報じられたが、他クラスの昇級や降級は、なかなか目に触れる機会が少ない。3月10日のC級2組最終戦で2021年度の順位戦が終わったので、全クラスおさらいしておきましょう。

将棋界順位ピラミッドピラミッド

将棋界順位ピラミッドピラミッド

★斎藤慎八段が昨年に続き名人挑戦。ジンクス破れるか★羽生九段と山崎八段降級★

【A級=10人】(名人挑戦1人、降級2人) 挑戦も降級も最終戦まで持ち越される年は「将棋界の一番長い日」として注目の的となるのだが、今期は最終の9回戦を待たずに挑戦、降級とも決まってしまった。

 名人挑戦権を得たのは観る将から「さいたろう」の愛称で親しまれる斎藤慎太郎八段。端正な顔立ちで物腰も柔らかく、勝負師のイメージからは遠いのだが、将棋は序盤から終盤まで隙がない。ラス前の8回戦まで無傷の8連勝。この時点で2位が既に3敗で昇級が確定した。最終戦こそ糸谷哲郎八段に敗れて8勝1敗で終えたものの、まさに独走だった。

 A級初登場の前期も8勝1敗でいきなり1位となり、名人に初挑戦した。しかし7番勝負は、渡辺明名人に1勝4敗(○●●●●)で敗退。今回は2年連続の大舞台でリベンジを期す。

 ちなみに同一棋士が挑戦者として2年連続名人戦に挑んだ例は3度あり、全て名人が防衛している。53、54年度は升田幸三八段が大山康晴名人に1-4、1-4。79、80年度は米長邦雄九段が中原誠名人に2-4、1-4(1持将棋)。12、13年度は羽生善治2冠、3冠が森内俊之名人に2-4、1-4。果たして斎藤慎八段はジンクスを敗れるか。なお、連続挑戦で敗退した升田も米長も羽生も逆境を糧に、その後名人位を獲得している。

 一方、降級となった羽生善治九段。1993年度から29期A級に君臨し、うち名人在位は9期に及ぶ。将棋に縁のない人にも知られた第一人者でも、AIを使った最先端の研究合戦で星を伸ばせなかったということか。2勝7敗で9位。大山康晴十五世名人のように生涯A級にとどまるものと思っていたが…。B1から昇級する藤井竜王と入れ違いで、両者の対局が見られないのも残念。来期のカムバックを望むファンは多いだろう。

 もう1人は山崎隆之八段。初のA級は1勝8敗と厳しい結果となってしまった。定跡にとらわれない指し方で、解説も軽妙な人気棋士だけに、こちらも奮起が期待される。

 なお最終9回戦の菅井-豊島戦は午後10時42分、千日手が成立して、指し直し局を豊島八段が制した。終局は午前3時18分。来期の順位を懸けた戦いも最後まで熱かった。

(グラフィック・山本遥香)

(グラフィック・山本遥香)

★藤井竜王いよいよA級★稲葉八段は再昇級★木村八段、松尾八段、阿久津八段がB2降級★

【B級1組=13人】(昇級2人、降級3人) タイトル経験者も多く「鬼のすみか」といわれるクラス。ラス前の11回戦を終えて、昇級は2敗の藤井聡太竜王、2敗の稲葉陽八段、同じく3敗千田翔太七段の3人に絞られた。条件は以下の通り。

 藤井聡=勝てば昇級。負けても稲葉●か千田●で昇級。

 稲葉=勝てば昇級。負けても千田●なら昇級。

 千田=勝って藤井聡●か稲葉●で昇級。

 藤井竜王は佐々木勇気七段を下し、10勝2敗で初のA級昇級を決めた。デビュー29連勝で止められた因縁の相手の研究を受け止め、形勢を好転させてからは一気に寄り切った。C1で1度足踏みした以外は1期抜け。いよいよ名人位が見えてきた。2002年7月生まれで19歳の藤井竜王は、来年度名人奪取となれば20歳。谷川浩司九段が83年に達成した21歳2カ月の史上最年少名人獲得記録を塗り替える。記録更新のチャンスは1度しかないが、ここ一番の勝負強さは誰もが知るところだ。

 順位戦通算49勝3敗で勝率9割4分2厘は、この日までの勝率8割3分6厘(265勝52敗)と比べて1割以上も高い。敗れたのは今期の稲葉八段、千田七段と、18年度の近藤誠也五段(段位は当時)だけ。33歳以上の棋士には順位戦で1度も負けていない。次年度A級の33歳以上は糸谷八段、佐藤天九段、広瀬八段、佐藤康九段、稲葉八段の4人だが、トップの猛者たちは年齢など関係ないか。

 稲葉八段は郷田真隆九段を破り9勝3敗とし、1期でA級に返り咲いた。AIによる研究を誰よりも早く取り入れた千田七段も木村一基九段を下して9勝3敗としたが、順位の差に泣いた。

 残留争いも熾烈(しれつ)を極めた。9敗していた松尾歩八段の降級が決まっており、8敗の木村一基九段、久保利明九段、阿久津主税八段のうち1人だけが助かる状況。久保九段と阿久津八段が直接対決なので、勝った方が上がれる。条件は3人とも勝てば昇級、負けたら降級というシンプルな形となった。

 結果、直接対決を制した久保九段が4勝8敗で残留。敗れた木村九段、阿久津八段と、最終戦で意地を見せた松尾八段が3勝9敗で降級となった。解説者としてはそれぞれ「面白い」「明るい」「渋い」キャラで画面に登場する回数も多い。カムバックを待ちたい。

★澤田七段、中村太七段がB1昇級★残る1枠は丸山九段が滑り込み★飯塚七段、窪田七段がC1降級★

【B級2組=13人】(昇級3、降級点6人) 成績下位6人に降級点がつき、降級点2回で降級となる。

 澤田真吾七段と中村太地七段が最終戦を待たずに昇級を決めた。それぞれ30歳、33歳の指し盛りでA級を狙える位置に来た。残る1枠は2敗の丸山忠久九段と鈴木大介九段の争い。条件は…

 丸山=勝てば昇級。負けても鈴木●なら昇級。

 鈴木=勝って丸山●で昇級。

 最終の10回戦は、有利な立場だった丸山九段が中田宏樹八段を下して8勝2敗とし、1期でB1復帰を果たした。さすがは元名人! 鈴木八段は中村太七段に敗れて望みが断たれたが、7勝3敗の勝ち越しで降級点を消した。連盟常務理事という要職にありながら、この活躍は佐藤康光会長(A級7位)ともどもご立派の一言ですな。

 降級のゆくえはラス前の9回戦を終えて9連敗の窪田七段が2度目の降級点で無念。飯塚祐紀七段は最終戦で負けたら降級、勝っても中川大輔八段○か阿部隆九段○で降級とかなり厳しい条件を背負った。結果、中川●、阿部●と風が吹いたかに思われたが、自身が井上慶太九段に敗れて他力を生かせなかった。

 また藤井竜王の師匠として知られる杉本昌隆八段は6勝4敗で降級点を消した。逆に降級点1となったのは中川大輔八段、中村修九段、藤井猛九段、中田宏樹八段の4人。来期は崖っぷちとなる。

〈昇級〉(4)澤田真吾七段9勝1敗、(9)中村太地七段9勝1敗、(2)丸山忠久九段8勝2敗

〈降級〉(25)飯塚祐紀七段3勝7敗、(19)窪田義行七段0勝10敗

★大橋六段連続昇級★及川七段、飯島八段もB2へ★佐藤秀八段、森下九段、豊川七段,田村七段がC2降級★

【C級1組=35人】(昇級3人、降級点7人)下位7人に降級点。降級点2回で降級 ラス前終了時点で8勝1敗で順位が良かった及川拓馬七段が、最終戦前に昇級を決めた。妻は上田初美女流四段で2女の優しいパパ。残る2枠は8勝1敗の大橋貴洸六段、7勝2敗の飯島栄治八段、高橋道雄九段の争い。61歳の高橋九段が奮闘した。これまでの最高齢昇級は77年度にB級1組からA級に上がった花村元司九段の60歳。昇級なら44年ぶりに記録を塗り替えるところだったが…。

 大橋=勝てば昇級、負けても飯島●か高橋●で昇級。

 飯島=勝てば昇級。負けても高橋●で昇級。

 高橋=勝って大橋●か飯島●で昇級。

 結果は大橋六段が白星締めで9勝1敗トップ通過。昨年度はC級2組を3位で抜けており、2期連続の昇級となった。ビビッドカラーの派手なスーツが似合う〝だて男〟が、いよいよギアを上げてきた。

 飯島八段は佐藤和俊七段に負けて、競争相手の高橋九段の結果待ちに。

 高橋九段は先崎学九段相手に矢倉戦を優位に進めていたが、終盤で逆転を許して最後は即詰み。61歳の快挙はならず、飯島八段が7勝3敗で昇級となった。

 降級点は7人に。そのうち元A級の森下卓九段、「同飛車大学」など駄じゃれ王として人気の豊川孝弘七段、かつて順位戦に強いと言われた佐藤秀司八段、超早指しの田村康介七段が2度目の降級点で4人が降級する。

 門倉啓太五段(7勝3敗)と宮田敦史七段(6勝4敗)は勝ち越して降級点を消し、先崎九段(3勝7敗)と平藤眞吾七段(2勝8敗)、金井恒太六段(2勝8敗)に降級点がついた。

〈昇級〉(31)大橋貴洸六段9勝1敗、(7)及川拓馬七段8勝2敗、(2)飯島栄治八段7勝3敗

〈降級〉(34)佐藤秀司八段3勝7敗、(27)森下卓九段2勝8敗、(28)豊川孝弘七段2勝8敗、(32)田村康介七段1勝9敗

★西田五段がC1昇級★5人で争った残り2枠は渡辺和四段と伊藤匠四段★

【C級2組=53人】(昇級3人、降級点11人)下位11人に降級点。降級点3回で降級 西田拓也五段が開幕から9連勝で、順位の関係でラス前に昇級が決定。

 もう2枠は8勝1敗の服部慎一郎四段、渡辺和史四段、伊藤匠四段、7勝2敗の黒沢怜生六段、杉本和陽五段の5人に可能性が残された。

 服部=勝てば昇級。負けても渡辺和か伊藤匠のどちらかが●で昇級。

 渡辺和=勝てば昇級。負けても伊藤匠と杉本和が●なら昇級。

 伊藤匠=勝って服部か渡辺和が●なら昇級。

 黒沢=勝って服部、渡辺和、伊藤匠のうち2人が●なら昇級。

 杉本和=勝って渡辺和、伊藤匠、黒沢がそろって●なら昇級。

 結果は…

●服部○遠山雄亮六段

○渡辺和●長谷部浩平四段

○伊藤匠●近藤正和七段

○黒沢 ●石川優太四段

○杉本和●伊藤真吾六段

 終局が比較的早かった黒沢六段と伊藤匠四段は、勝ったが他の結果次第なので気が気でなかったかもしれない。続いて自力の服部四段が敗れ、この瞬間、伊藤匠四段が順位戦初参加で昇級を果たした。藤井竜王とは同学年で誕生日は約3カ月遅い19歳。その背中を追っていく。

 杉本和五段は不利とみられた将棋を逆転したが昇級には届かず。最後に残った渡辺和四段は両者1分将棋の激戦。敗勢の場面から長谷部四段を一気にひっくり返して自力で昇級にこぎつけた。終局は0時9分。

 降級は田中寅彦九段。序盤のエジソンと呼ばれ、1988年度前期に棋聖を獲得。棋戦優勝も6回を数える64歳の御大は、勝ち残っている棋戦で全て敗退すると引退となる。ワイドショーで藤井将棋をユーモア交えて解説する姿は、おなじみではないだろうか。

 他に降級点2つの佐藤慎一五段と中田功八段は明暗を分けた。佐藤慎五段は上村亘五段に勝って4勝6敗で降級点を回避。中田功八段は山本博志四段に敗れ、フリークラス転出となった。

 C級2組は53人の大所帯で昇級3枠と非常に狭き門。今回昇級争いした面々の他に本田奎五段(8勝2敗)、梶浦宏孝七段(7勝3敗)、佐々木大地五段(7勝3敗)、斎藤明日斗五段(7勝3敗)、高野智史六段(6勝4敗)、八代弥七段(6勝4敗)といった有望株がひしめいているのだから、抜け出すのは本当に大変だ。少なくともC級2組に関しては、現行の昇級3枠は厳しすぎる気がしてならない。

〈昇級〉(25)渡辺和史四段9勝1敗、(33)西田拓也五段9勝1敗、(50)伊藤匠四段9勝1敗

〈降級〉(35)中田功八段2勝8敗、(49)田中寅彦九段1勝9敗

◆岡山俊明(おかやま・としあき) 1965年、東京都生まれ。89年入社。ただのライトな将棋ファンで、観る将としてもまだまだ級位者。競馬記者歴25年以上。競馬デスク時代に何度か棋士の方々に紙面で予想をお願いした。日本将棋連盟アマ初段の免状はあるが、指す将としては実戦不足が甚だしく弱い。