東京オリンピック(五輪)代表の一山麻緒(23=ワコール)が、同じく五輪代表の前田穂南(天満屋)を大きく引き離し、2時間21分11秒の好記録で優勝した。新型コロナウイルス感染拡大により無観客、公園内の周回コースで争われた特殊なレース。高低差が少なく、男子選手がペースメーカーを務めたこともあって16年ぶりの日本記録更新の期待も高まったが、記録達成はならず。レース後には勝者の目に、悔しさ交じりの涙がこぼれた。

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最後の15周目のラップに入ると、まるでトラックレースのように鐘の音が響いた。ペースメーカーの川内らに導かれた一山が、最後の力を振り絞る。大会史上最速の2時間21分11秒でフィニッシュテープを切ったが、「日本記録を目指して練習してきた。ゴールの瞬間、あまりうれしいとは思えなかった」。記録更新に向けて支えてくれたチームスタッフへの感謝に言及した時、悔しさが入り交じった涙がほおを伝った。

コロナ禍による異例ずくめのレース。無観客で行われ、公園内の周回コースを使って実施された。本来の市街地コースに比べて極端に起伏の少ないことに加え、川内ら男性ペースメーカーが先導役を務めるとあって、好記録が期待された。

ターゲットは05年9月のベルリンで野口みずきが記録した2時間19分12秒。同じ東京五輪代表の前田が前半で脱落する中で、1キロ3分17~18秒に近いペースを快調に刻み、「集中して走れた」。中間地点までは日本記録も射程圏内に入っていた。しかし、25キロ地点に差し掛かったあたりから「呼吸がきつくなりはじめた」。昨年3月の名古屋で記録した自己記録にも及ばなかった。

スピード強化に励んだ昨年は、5000メートルと1万メートルで自己ベストを更新。自信を胸に調整してきたが、年末に体調を崩し、約5日間は歩くことすらできず、流動食での生活を余儀なくされた。順調さを欠いて臨んだ中でも、「ただただ、自分の力がなかった」。言い訳は一切しなかった。

悔しさは残ったが、日本記録ペースを肌で感じることができたことは、今後への財産。最大目標は、夏の札幌が舞台の東京五輪。「最高の走りができるように、最高の準備をしていきたい」。この日の経験を、最高の舞台で輝くための糧とする。【奥岡幹浩】

◆一山麻緒(いちやま・まお)1997年(平9)5月29日、鹿児島県生まれ。出水中では800メートル、1500メートルで県大会入賞。出水中央高では1500メートルと3000メートルで全国高校総体出場も決勝進出ならず。16年にワコール入社。19年MGCは6位。20年名古屋ウィメンズマラソンで2時間20分29秒の国内レース最高記録を樹立し、東京五輪切符獲得。憧れは同門の福士加代子。158センチ、43キロ。

<大阪国際女子マラソンの上位成績>

(1)一山麻緒(ワコール)2時間21分11秒

(2)前田穂南(天満屋)2時間23分30秒

(3)阿部有香里(しまむら)2時間24分41秒

(4)上杉真穂(スターツ)2時間24分52秒

(5)萩原歩美(豊田自動織機TC)2時間26分15秒

(6)和久夢来(ユニバーサルエンターテインメント)2時間26分42秒

(7)池満綾乃(鹿児島銀行)2時間28分26秒

(8)松田杏奈(京セラ)2時間29分52秒

(9)谷本観月(天満屋)2時間31分7秒

(10)兼重志帆(GRlab関東)2時間31分56秒

※今大会は男女混合レース扱いとなり、一山と野口みずきの記録(03年の2時間21分18秒)は大会記録として併記される。