あれから9年。

2011年3月11日。今、街はどのようになっているのだろうか。今何を考えるべきなのだろうか。

私は毎年、年に2回は岩手県大船渡市に行き、水泳を教えているが、今月の大船渡行きは延期になった。理由は、新型コロナウイルス感染拡大の影響だ。とても残念ではあるが、「今できることを」という気持ちで記事にしたいと思う。大船渡の皆さんに思いをはせて。


14日の常磐線全線開通に向けて試運転する車両
14日の常磐線全線開通に向けて試運転する車両

今回も東日本大震災復興支援財団が主催する「東北『夢』応援プログラム」の修了式に行く予定だった。スマートコーチという動画送信のシステムを利用して、1年間水泳の遠隔指導をしてきた。

子供たちは毎月、コーチたちの協力を得て、泳ぎの動画を送ってくる。会っていないけれど、会っている気持ちになるし、動画から「今日は入水の位置を気をつけて泳ぎます」などのコメントを聞くことも、とてもうれしい。今の時代ならではだと思う。

2年くらい前から子供たちの夢が「安心できる平和な街にしたい」「復興したい」という声よりも、「大船渡を東京みたいにしたい」「サッカー場がほしい」などと変わってきた。2年前に訪れた岩手県紫波町の町議会議員、熊谷育子さんが「ハードの復興ではなく、ソフト(心)の復興がこれからは必要」と話されていたことを思い出す。

9年が経ち、実際はどうなのだろうか。

東北で被災された方は「自分は被災者である」という意識がある方がまだ多い。ある報道では、建物などは復興してきているが、2人に1人が地域経済や地域のつながりの復興実感がない、と答えていた。

以前、訪問した福島県双葉町では今月4日、東京電力福島第1原発事故による避難指示が一部地域で解除された。7日には寺沢地区に整備された常磐道双葉インターチェンジが開通した。また14日から再開されるJR常磐線。双葉駅も出来上がっている。


14日の常磐線全線開通に向けて工事が進むJR双葉駅
14日の常磐線全線開通に向けて工事が進むJR双葉駅

訪問した時は、建設中だった。小学校にも行ったが、黒板には平成23年3月11日と書かれたままだった。双葉町の職員の方は「まさか自分のおじいちゃんの時代から通っていた学校に自分の子供が通えなくなるなんて思ってもみなかった」と言っていた。今は茨城に引っ越し、戻ることはないとも話していた。

「復興」といっても地域によって大きな差があるし、今後も同じ日本人として「自分にできること」を考え、行動していかなければならないと感じる。岩手県釜石市で行われたラグビーワールドカップ2019も台風の影響がありながらも、大成功を収めた。

しかしそれで終わりではない。これからなのだ。なんでもそうだ。

今、日本も世界も大変な時に来ている。「毎日が憂鬱(ゆううつ)になる」と、よく会話の中でも飛び交う。冒頭にも書いたが、「今できる最善のこと」をそれぞれの立場でそれぞれが真剣に考えること。大切なことは何なのか。

サスティナブルな社会?多様性?グローバルスタンダード?いろいろあるだろう。

被災地の方が共通して話していたのは、「忘れられたくない」「孤独を感じる」という気持ちだ。最後に残ったのは人と人とのつながり。コミュニケーションをとり、助け合うことなのではないか。相手を知り、争いをなくす。相手を知れば、その人(その国)のことがわかり、争わなくなる。

私は、スポーツを通して伝え続けていきたいと思っている。

「3月11日を決して忘れてはならない」。被災地を訪問するたびに、話を聞くたびに思う。社会の一部である私たち自身が社会に対して何ができるのか。考えてみる時間は大いにある。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)