私が初めて単身でアメリカのインディアナポリスを訪れたのは2007年。大学1年生の時だった。

世界ジュニアで仲良くなったアメリカの選手たちが「一緒に練習しよう!」と誘ってくれたことがキッカケだった。滞在中は、友人宅にホームステイをさせてもらった。早朝からの練習の支度にバタバタしながらも、私の分の朝食やスナックも一緒に準備してくれた。


インディアナポリスでブライアント(右)、フィンチャム(後方)と
インディアナポリスでブライアント(右)、フィンチャム(後方)と

時間がない朝の定番は、トルティーヤ。中身は、スクランブルエッグとチーズだった。優しい塩加減で、程よくおなかを満たしてくれるので、お気に入りの朝食だった。スナックには、小ぶりなりんごを丸かじりすることが多かった。その他にも、生の小さなにんじんやセロリスティック、ブルーベリーやラズベリーなどのフルーツなども持って行った。

「スナック=お菓子」だった私には、あまりになじみのないものばかり。初めは驚いたが、見習うべき部分だと感心した。

ハイカロリーなものや、ファストフードの誘惑が多いアメリカ。若い彼らだったが、どれだけ自分を律するかが、その後の競技人生を大きく左右することが分かっていたのだろう。

日頃からの競技に対する意識は、すでに立派なアスリートだった。

その食習慣は、海外試合でも生かされる。

グランプリや、W杯などの試合では、必ず開催国が試合会場近くのホテルを準備してくれている。3度の食事もホテル内で済ませられるようになっており、バイキング形式で自分の食べたいものを食べたいだけ選ぶことができる。もちろんデザートも食べ放題だ。主に開催国の郷土料理が並ぶことが多いが、そこで何を選ぶのか。わずか1週間ほどの滞在であっても、試合に向けてコンディションを整えるためには、1食1食の食事内容はとても大切である。

日本代表になっても、常に栄養士が現地に同行してくれるわけではない。そのため、年齢に関係なく、トップとして戦う意識がある選手には、できるだけ早い段階で、食の意味や役割を理解させる必要がある。そして、自分の体調管理を、自分自身できるように指導することが、どんな環境でもベストパフォーマンスを発揮させるには重要だと感じる。

ありがたいことに、若い頃に他国選手の日常的な食習慣を知れたことは大きかった。おかげで、彼らから刺激を受け、切磋琢磨(せっさたくま)しながら同じ時代を歩むことができた。

出会ったころのみんなとの約束は、一緒に2008年の北京オリンピックへ出場すること。

その約束をモチベーションにし、コーチであるジョンを含め、みんなそろって北京オリンピックへの出場を果たした。


北京五輪で。左からフィンチャム、ブライアント、ダナヘイ、ボウディア、筆者、イシマツ
北京五輪で。左からフィンチャム、ブライアント、ダナヘイ、ボウディア、筆者、イシマツ

その次の2012年ロンドンオリンピックでは、2人の友人がメダリストになった。女子3メートルシンクロに出場したKelci Bryant(キャシー・ブライアント)は、銀メダルを獲得。そして、David Boudia(デイビッド・ボウディア)は男子10メートル高飛び込みで金メダル、10メートルシンクロでも銅メダルに輝いた。

Davidに関しては、3人の子供の父親になった現在も、現役を続けている。

今は3メートル板飛び込みの個人とシンクロの両種目で、東京オリンピックを目指している。

さらに、アメリカ代表でもう1人注目している選手がいる。女子3メートル板飛び込みのSarah Bacon(サラ・ベーコン)だ。彼女もインディアナポリスで共に練習した友人の1人で、素晴らしい才能の持ち主。2019年に韓国で行われた世界選手権に出場し、1メートル板飛び込みで見事、銀メダルを獲得した。それからというもの、目覚ましい進化を見せている。彼女の肉体美からも、食事の管理や日頃のトレーニングを、以前よりもストイックに行っていることがうかがえる。個人的には、東京オリンピックで活躍する選手の1人として期待している。

飛び込みは水着1枚で「美」を競い合う採点競技。選手たちの長きにわたって鍛え上げられた身体が魅せる、ダイナミックで美しい演技を、ぜひ皆さんにも観てほしい。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)