国際オリンピック委員会(IOC)は17日、30以上の各国際競技団体(IF)幹部と緊急電話会議を開催。新型コロナウイルスの影響で不安視される東京オリンピック(五輪)を予定通り開催する方針を再確認した。

時事通信によると、冒頭にIOCのバッハ会長が、準備を予定通り進める意向が示されると、全員が賛成の意を述べたという。大なり小なり、IFはIOCに首根っこを押さえられている。反対はなかなかできない。なぜか。

今回の東京五輪について、通常開催、延期、中止、無観客など、論議が噴出している。その中で、秋の開催ができない理由の1つとして、米TV局NBCが支払う莫大(ばくだい)な放送権料が挙がる。NBCは、IOCと14年ソチ冬季大会から32年夏季大会まで、約120億ドル(約1兆2000億円)の放送権料で契約していると言われる。

秋には、米国内でアメリカンフットボールのNFL、バスケットボールのNBAが開幕し、野球のMLBがポストシーズンとイベントが真っ盛り。五輪とバッティングさせたくないNBCの意向に、IOCが逆らえないというものだ。

そこには、IOCを“銭ゲバ”だとする構図が見え隠れする。しかし、IOCは非営利団体だ。営利を目的とせず、団体構成員(ここではIOC自体)に利益をもたらさず、公益として収入は分配しなくてはいけない。つまりNPOで、これが非営利団体の基本だ。

19年7月にIOCが公開している「マーケティング・ファイル」がある。これによると、13~16年のIOC収入は5億7000万ドル(約627億円)。その内の73%が放送権料だ。NBCの放送権料は、その8割を占めると言われる。確かに、IOCの収入を支えているのが放送権料だということが分かる。

それでは、その600億円強の収入は、どこに使われているのか。その資料によると、90%が各国の国内オリンピック委員会(NOC)が選手をサポートする資金やIFの運営費などに分配されている。残りの10%が、IOC本体の運営費などに充当される。

IFの収入を見てみよう。各IFは、各年の財務状況を公開している。いくつかIFの18年の収入と、その内、五輪関連の収入がいくらぐらいか調べてみた。

◆国際水泳連盟(FINA) ◎18年収入 3261万5680スイスフラン(約36億2000万円) ○IOC五輪関連収入 55万3384スイスフラン(約6140万円)

◆国際テニス連盟(ITF) ◎7283万5000ドル(約80億1200万円) ○635万2000ドル(約6億9900万円)

◆国際卓球連盟(ITTF) ◎2135万416ドル(約23億4900万円) ○401万3290ドル(約4億4100万円)

◆世界アーチェリー連盟(WA) ◎279万4699スイスフラン(約3億1000万円) ○27万3058スイスフラン(約3000万円)

IOC五輪関連収入が全収入の中で最も割合が多いのがITTFの約19%。最少がFINAの約1・7%だ。しかし、FINAも17年は全収入7830万8897スイスフラン中、513万6478スイスフランがIOC五輪関連収入で、その割合は約6・6%となる。

この割合を多いと見るか、少ないと見るか。意見は分かれるところだが、筆者は十分に多いと見る。この収入がなくなれば、運営や強化に影響が出るIFが出てきてもおかしくない。特に小さなIFは、この収入が頼みの綱だ。これが、IFがIOCに首根っこを押さえられている正体なのだ。

そして、その原資の大半を、現在はNBCが握っている。極論すれば、各IFの存続がNBCにかかっていると言ってもいいだろう。IFがこの収入の割合を少しでも減らし、自立できれば、IOCに対して、ものが言える団体となる。

IFが、各競技の運命を握っているのだ。財政的な自助自立をどうやってできるのか。新型コロナウイルスという見えない敵が吹き荒れることに嘆いている時間はない。この機会を利用し、IFが声を挙げるときが来たのだと思う。【吉松忠弘】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)