1月21日で36歳になった。

ラグビー日本代表としてW杯3大会連続出場中のフッカー堀江翔太。所属する埼玉パナソニックワイルドナイツの一員として臨む「リーグワン」初戦が、23日に本拠の埼玉・熊谷ラグビー場に横浜キヤノンイーグルスを迎える一戦となる。

本来であれば約2週間前、東京・国立競技場で新リーグの幕開けを飾るはずだった。だが、チーム内に新型コロナウイルスの陽性者が確認され、第1~2節は不戦敗扱いとなった。前身のトップリーグで昨季に最後の王者となったが、第2節を終えて勝ち点0。向かい風が吹く初陣となる。

もう30年ほどたつのに、忘れられない光景がある。幼稚園か、小学校低学年。年齢の定かな記憶はないが、幼い堀江は、兵庫県にある阪神甲子園球場にいた。

「阪神と広島の試合です。全然野球に興味がないのに、おやじに連れて行かれたんですよ。スタンドの上の方で(見える)選手たちも、ちっちゃかったです」

まばゆい光が黒土と天然芝に反射し、観客がメガホンをたたいて刻まれた一定のリズムが耳から入ってくる。その空間を、少年は五感で楽しんだ。

「入った瞬間に『おぉ~!』ってなったんです。7回になったらビュ~ッと風船が飛んでいく。その裏ではオジサンがずっと将棋の話をしていて…。ルールが分からなくても、メガホンをたたいたんです。この年になっても、その思い出って残っているんですよね」

日本ラグビー界の“アニキ”と呼んでいい百戦錬磨の男は、あの日の記憶と、産声を上げたリーグワンを結び付けた。

「異世界に来たというか、普段感じられない匂いを感じられる場所でありたいですよね。ライブを見に行く感覚、ディズニーランドに行く感覚、出店のある祭に行く感覚…。選手と運営側の意見に折り合いをつけて、真ん中を取って、お客さんが喜んでくれるような空間を作っていかないといけない。見ている側が僕らに合わすんじゃなく、“見ている側は見ている側、やっている側はやっている側”で、いいと思うんです」

まもなく開催から2年半となる2019年ラグビーW杯日本大会。過去最高となる8強の原動力となりながら、テレビの画面、バスの窓、そしてスタジアムで見える光景に胸が躍った。

「ああいう海外の人たちが、スポーツの見方をW杯で教えてくれましたよね。変装していたり、お酒を飲んだり。あんな光景を思い返すと、スタジアムへの道が歩行者天国になったり、そこにストリート文化を入れたり、ファッションのイベントがあったり…といろいろ考えますね。お客さんが入るほど、選手のモチベーションが上がるのは間違いないです。“見る側”と“やっている側”が、それぞれ楽しめる空間を作らないといけないと思います。もちろん協力できることはしますし、僕たちはどれだけいいラグビーをできるかを突き詰めていきたいです」

年明けのチーム活動中断期間の影響は心配材料だが、昨季終了後も過酷なトレーニングを自らに課してきた。2021年夏も佐藤義人トレーナーとともに、1カ月にわたって体をいじめ抜いた。36歳は元気だ。

「若い時より今の方がトレーニングをやっています。この年にして、気づくこともあるんです。8月に(埼玉に)帰ってきてから、ほとんど治療を受けていない。きちんとした動きをできているからこそ、です」

横浜戦のキックオフは午後2時半。背番号2の大きな背中を揺らし、堀江は生きざまを見せる。【松本航】

◆堀江翔太(ほりえ・しょうた)1986年(昭61)1月21日、大阪府生まれ。大阪・島本高から帝京大を経て、08年に三洋電機(パナソニック~現埼玉)入り。13年からスーパーラグビーのレベルズ、16年からはサンウルブズでもプレー。21年秋に購入した、お気に入りのジーンズを着用するのが最近の楽しみ。代表キャップは66。180センチ、104キロ。

笑顔で思いを語る埼玉堀江翔太
笑顔で思いを語る埼玉堀江翔太