今大会がシングル最後となる高橋大輔(33=関大KFSC)が65・95点を記録し、14位となった。年明けのアイスダンス転向を前に、競技会では最初で最後のアップテンポな新SP「ザ・フェニックス」を披露。33歳にして革新的な演技で力を出し切り「あと10年若かったら…」と笑わせた。

脚は限界に達していた。残り40秒で迎えた最後のステップ。スケート靴を極限まで倒し、氷の硬さを和らげるように右へ、左へ進んだ。「気持ちはまだいけそう。でも、脚がついてきてくれない」。場内には常に手拍子が響いた。米歌手ビヨンセの振り付けを行ってきたシェリル・ムラカミ氏らと作り上げた2分40秒。1回転下の判定となったトリプルアクセル(3回転半)、転倒した3回転ルッツ。「出来としては最悪」と振り返った表現者を、総立ちの観衆が包み込んだ。

10年バンクーバーオリンピック(五輪)で銅メダル。1カ月後の世界選手権は金メダルとアジア男子初の快挙を重ねた。それを支えたのがステップだった。中2の夏から指導する長光歌子コーチは、思い切り体の軸を外せることを要因に挙げる。ターンの際、一般的な選手は1つの軸の中で体を倒すが、高橋は左右へ軸自体を動かせる。その特異性が、エッジ(刃)を氷へ深く倒す。同コーチはその理由を明かした。

「全ての振り付けの先生、全てのコーチがみんなで作ってくれた。その時、その時にむちゃぶりをし、彼が積み上げた成果です」

この日、ステップはレベル2。定められた要素を満たしきれず、最高の4には届かなかった。それでも響くものがあるから、見る者の心は躍った。「どこで切ったのかな」と右手薬指の血を拭った男は笑った。

「最後の全日本は(手が)切れるんですかね。全日本に立てるのはぜいたくなこと。最後は思い切り、1人で滑るのを楽しみたい」

スケートを始めて、まもなく26年。節目には最高の笑顔が似合う。【松本航】