フィギュアスケート男子で10年バンクーバー五輪代表の織田信成氏(35)が、陰口などのモラルハラスメントで精神的苦痛を受け、関大アイススケート部の監督辞任に追い込まれたとして、19年11月に当時同部コーチだった浜田美栄氏(63)に1100万円の損害賠償を求めた訴訟の口頭弁論が1日、大阪地裁であった。全面対立のまま結審し、松本明敏裁判長は判決期日を23年3月2日に指定した。

織田氏側は同氏が監督に就任する直前の17年3月、リンク上で5人が一斉に「8の字練習」をしており、危険性があるため浜田氏に注意したことがハラスメントの発端とする。

スーツ姿の織田氏はこの日「顔を真っ赤にして『あなたの言うことは間違っている!』と言われた」と主張し、同年4月の監督就任後も、19年1月に部内の学業成績不良者が多いことから練習時間の変更を提案。3月から実行されたが、同月の世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)でも「リンクサイドですれ違ったけれど、すごく顔を真っ赤にして(浜田氏は)あいさつしようにも無視。マネジャーと『むちゃくちゃ怖いね』と話した」と無視や嫌がらせがあったとした。

浜田氏の対応で変調をきたしたとし、39度以上の発熱でMRI検査も実施。復帰後も会議などの場で気分が悪くなった主張し、「朝、起きられなくて、家にいてもベッドから立ち上がれず、トイレに行くのもおっくうだった」と思い返した。同年9月に監督を辞し、11月に大阪地裁へ提訴した。

この日、織田氏はあらためて「浜田コーチからの数々の行為が原因」と監督辞任の理由を説明し「狭い業界でリンクも少ない。長年指導してきたコーチが発言力がある。引退して、若くして指導するコーチが大変な思いをしている。風通しを良くして、若いコーチが育つ環境をつくりたい」と訴えた。

続いて薄いピンクのジャケット姿で証言台に立った浜田氏は無視の有無、織田氏に対する敵意、無視する理由などについて、いずれも「ありません」と否定。関大が設置した調査委員会でも、モラハラなどの問題行為が一切認定されなかったと強調した。

浜田氏側は織田氏側が19年の提訴時の記者会見などでハラスメント行為があったかのような印象を抱かせているとし、名誉毀損(きそん)で反訴している。織田氏は19年10月に「嫌がらせ・モラハラ行為について」と題したブログをアップ。以降も一連の問題を取り上げた週刊誌報道などが原因で「コンビニで買い物をしていても『あっ、モラハラコーチ』と言われたこともある」などと具体例を挙げて説明した。

提訴からは3年が過ぎた。この日初めて両氏が司法の場で対面する形となり、浜田氏は「人を陥れるのは犯罪だと思う。裁判の結論が欲しいと思って、ここに立っている。3年黙っていられたのも、周りの人、選手が助けてくれたからだと思います」と声を詰まらせながら語った。