第76回びわ湖毎日マラソン(大津市皇子山陸上競技場発着)は28日、滋賀を舞台とした最後の大会が行われる。22年からは大阪マラソンと統合され、今回が節目のレースとなる。

長い歴史の中で記録にも、記憶にも刻まれたレースの1つに、1973年(昭48)の第28回大会が挙げられる。前年72年のミュンヘン五輪で金メダルを獲得したフランク・ショーター(米国)が、レース途中で用を足しながらも、タイムロスを物ともせずに大会新記録樹立。2時間12分3秒で優勝を飾った、伝説的な走りとなった。レース翌日の3月19日付日刊スポーツの紙面にある記述を基に、レース模様を振り返ります。

 

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第28回毎日マラソン

◇3月18日◇午後1時◇滋賀県大津市皇子山競技場-守山市山賀折り返し◇42・195キロ◇出場55人

 

◆号砲 「気温5度という寒さの中でスタート」

◆16キロ 「先頭を行くショーターがふいにコースから姿を消した。『いやあ、11キロ地点で飲んだコーラがいけなかった。しばらくしたら胃がキリキリ痛くなっちゃったんだ』というわけで、ショーターは一時レースを放棄。草むらの中にしゃがみ込んだ。ところが沿道に群がるファンの中から、そんなショーターめがけてカメラを向ける男が現れた。『こらっ、あっちへ行ってくれ』。ビックリしたショーターは立ち上がって男を追い回す。その後でゆうゆうと“大”の方の用を足してから再びレースを続行」

◆16~20キロ過ぎ 「差は約50メートル。しかし金メダルの足はそんなハンディをものともしない。17、18キロとジリジリ差をつめ、20キロ過ぎに難なくトップの座を奪い返し、以後はゴールまで独走を続けた」

◆ゴール後 「『私の計算では、あの用足しで35秒のロスタイムだった。だけどふいにカメラマンが現れたので実際は50秒もロスしてしまった。大の男のあんな姿を写したってしょうがないのに…』。レース後のインタビューでショーターはこういって苦笑いする」

◆レース総括 「それにしてもショーターの強さは群を抜いている。マラソンを始めて3年目。この日のレースが7回目のものだが、最初のAAU(全米体協)大会で2位になって以後は負け知らず。今回の勝利でマラソン6連勝。ところがこの日も含めて過去3レースでショーターは用足しをやらかしているのだ」

「一昨年の福岡国際と昨年南米のカリで開催されたパンアメリカン大会がそれ。『あんなもの、我慢して走り続けては体に悪い。思い切って出してしまえば、気分爽快になって、十分にロスタイムをカバー出来るものさ』と軽くいなす。事実その通り3レースとも勝っているのだからこれはもう怪物というほかにない」

「『今日は気温が低かったし、前半飛ばしすぎたせいか、後半足が疲れた。もっと速く走りたいと思いながら走り続けていたんだ』ともいう。スピード王としては大会新記録を喜ぶ前に、会心の出来ではなかったレースの反省が先にたつようだった」

◆日本人選手への助言 「『日本のランナーはペース配分にこだわりすぎている。もっと勇気を持って最初から飛ばし、自分と競り合わなければ記録は伸びない』。マラソンは耐久力ではなくスピードのレースと主張する。陸連帖佐強化部長も『北山の課題は、今の耐久力を保ちながらスピードをつけることにある』と指摘している。本人は『エッ? あんなケタ違いなスピードにはついていけませんよ』と頭をかいた」

 

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◆最終順位

〈1〉フランク・ショーター(米国)2時間12分3秒

〈2〉北山吉信(旭化成)2時間13分24秒

〈3〉采谷義秋(広島県教育事業団)2時間15分53秒

〈4〉J・ビタリ(米国)2時間16分15秒

〈5〉森田義昭(旭化成)2時間16分21秒