現役時代は本当にたくさんの国や地域に行かせてもらった。世界各国の文化や食事、そして人々に触れられた事は普通の学生生活では経験出来ないとても貴重な時間だった。

特に合宿でよく訪れていたのは中国。中国では飛込競技が国技といわれるほどレベルが高く、オリンピックでもメダルの常連国。注目度の高い人気スポーツの1つだ。そのため施設も多く、幼少期からの強化にもとても力を入れており、私たち日本人が合宿へ行っても十分に練習時間を確保させてくれるのでとてもありがたかった。

そして中国合宿でいつも楽しみにしていたのが食事。日本でもなじみのある中華料理は、レパートリーが豊富で飽きないだけではなく、何を食べても本当においしかった。いつも食べすぎないように気を付けながらも練習の原動力になっていた。


■揚げパンに手を出さず

そんな中で、毎日の朝食では出来たての揚げパンをメインで出してくれていた。見るからにとてもおいしそうだったが、ハードな練習をしているとはいえ、ただでさえ食事がおいしいのに毎朝揚げパンを食べれば私の体質なら絶対に太ると思った。他の選手がおいしそうに食べる中、私は1度も手をつけず、朝食はホテルの軽食で出ていた粥だけにしていた。

以前のコラムでも書いた「味を知らなければ我慢が出来る」という方法だ。今でもその事を覚えているほど食いしん坊な私だが、その小さな我慢がその後にあった試合で結果として返ってきた。


■ライバルに練習は見せない

その他にも、現役中は自分の弱点を克服するために工夫をして過ごしていた。苦手な肋木腹筋(ぶら下がって足を上げる腹筋トレーニング)は家でぶら下がれる棒を母に作ってもらい練習し、陸上での宙返りやランニングも家でもやっていた。

特に長距離が苦手ですぐに諦めて歩いてしまう癖を直すため、走りながら100メートルほど先にある電柱や家などに目標を決め、到達したらまた次の目標をすぐに決めてそこまで走るといった方法で長く走れるように訓練した。

しかしそんな自分の陰の努力を、人には絶対言わなかった。

特にライバルとなりうる選手にはマネをされたくなかったので、合宿中には誰もいない時にこっそりと行っていた。どれだけ負けず嫌いだったのかと今では笑ってしまうほどだが、とにかく勝ちたいという思いが行動へと繋がっていた。


■言葉できちんと伝えておけば

しかし1つだけもっとオープンにすれば良かったと思う事がある。それは「自分の目標ややりたい事を素直に言葉で表現する」ということだ。

負けず嫌いな性格からか選手時代は自分のコーチ以外は周りがみんな敵に見えてしまい、親切な事にも疑いの目を向けてしまう自分がいた。

それはきっと自分からきちんとコミュニケーションをとらなかったことが原因でもあると今は思う。言わずとも分かってもらえるなどとは思わず、言葉できちんと伝えていればもっと自分の味方や力になってくれる人が増えたのかもしれないと過去を振り返っている。

そして今はその選手時代の教訓を生かし、自分にも他人にも素直に生きていきたいと思っている。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)