為末大学

コロナ禍東京五輪、もうちょっと頑張ってみませんか

「東京五輪はもうダメでしょう」

為末大氏(2018年12月4日撮影)
為末大氏(2018年12月4日撮影)

そう言われることが多くなりました。

確かに世界中の状況を見ても、新型コロナウイルスの影響が収まる気配はなく、とても世界的なイベントなんて開けそうにありません。また、国内でも状況は刻一刻と変わっていて、それどころじゃないように思えます。

ですが、私はぎりぎりまで頑張ってみようよという意見です。難しいことは承知の上ですが、ほんの半年前まであんなに努力していた人たちもいたのに、検討もせずに一気に諦めることはないように思うのです。

今は五輪をやるのかそれともやめるのか、と意見が割れているように思いますが、実際にはその間にさまざまな選択肢があると思っています。まず、五輪と呼んでいるものの中を分解してみます。

■無観客も十分な選択肢

五輪には観客が必要だという観点ですが、無観客は十分な選択肢としてあり得ると思います。観客がいない中でやりたい選手なんていないと言われることもありますが、私も含む私の周辺の選手、元選手は全員、観客がいなくても構わないという意見でした。

ものすごくメジャーな競技以外は、観客があまりいない中での競技会なんて慣れっこですから、それほど違和感もありません。実際には五輪は映像で見て楽しめるように洗練されています。テクノロジーを活用することで、新しい観戦体験を生み出せる可能性もあります。

オリンピックの選手村は1972年9月5日の「ミュンヘン五輪事件」、そして2001年9月11日の「アメリカ同時多発テロ」を経て、かなり厳しい入村条件になっています。基本的には選手が選手村の中に入る時には空港のチェックと同じような荷物検査を受けます。

選手村内も一度入ってしまえば、なんでも中にあります。そして関係者以外が中に入ることは厳しく制限されています。選手村から競技場まではバスで直通です。裏を返せば選手は隔離されている状態なので、仮に選手村と競技場以外は移動禁止にしてしまえば、管理は難しくないだろうと思います。

また、競技もすべての競技をやらなくてもいいという考え方もあります。確かに開催が難しい競技もあると思います。全ての競技がそろわなくても五輪と言えるのかという疑問はあると思いますが、私はある程度仕方ないと思っています。

IOC(国際オリンピック委員会)は基本的には統括で、主な権限は各競技団体に任せられていますから、開催が難しいということになれば辞退をすると思われます。

おそらくここまで妥協をしていけば、1万人以下程度の人々が選手村に一気に入り、その後は隔離された状況で、バスで試合会場と行き来するということになります。もちろんPCR検査も常時受けつつです。

■開催判断来年3月でも

次に開催可否の判断時期です。私は以前、せめて年内に判断しないと選手たちの準備は間に合わないと言ってきましたが、考えを変えました。

今年の5月ぐらいまで世界的に自粛状況が続きましたが、いざふたを開けてみると、陸上競技に関しては例年とさほど変わらない記録を選手たちは出しています。競技特性もあると思いますが、トレーニングに制限はかかっても選手たちはうまく工夫してコンディションを保てるのではないかと思うようになりました。少なくとも選手の体調面では、おそらく来年3月ぐらいの判断でも間に合うのではないかと思います。

今すぐやめる判断をすることで削れるコストはこれから必要とされるコストです。これまでかかったコストはサンクコスト(埋没費用)ですので、やろうがやるまいがもう戻ってきません。判断の時期はもう少し先でしょうから、それまでの費用をかけるべきかどうかが、今すぐやめる判断をするかどうかの判断基準になるかと思いますが、私は費用をかける価値はあると思っています。

1歩引いてみて、社会にとって「なぜ五輪を開催するのか?」という意義を考えてみると、私はリトマス紙であり、1つの「環境負荷(人が環境に与える負担のこと)」だと思っています。五輪とは関係なく、このまま人の往来がなく、各国が分断された状態に置いておくことは、日本の置かれた環境を考えても、世界的な友好関係を考えても、とても良くないことだと思っています。

経済的な結びつき、文化的な交流こそが各国の友好の礎であり、これらが一時期でもなくなることは分断を助長することになると思います。来年の夏に五輪ができるような条件を頑張ってそろえてみることで、結果として人々が行き来できる状況を目指すことになり、それは日本においてもインバウンドの回復、世界から見ても好事例になるのではないでしょうか。

なんとか開催してみようと頑張って工夫した結果、ウィズ・コロナ時代のソリューションが生み出される可能性もあると思うのです。

あまり感情的になってはいけませんが、選手にとっては五輪は人生です。観客がいないとか、準備が不十分だとかそんな程度で諦められるような類いのものではありません。五輪は完璧でなくたってもいいのです。

厳しい状況なのはわかっています。結局ダメかもしれません。でも夢を諦めるなというメッセージは、まさにほんの半年前まであちこちで見かけた五輪のメッセージだったのではないでしょうか。

もうちょっとだけ頑張ってみませんか。(為末大)

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「為末大学」)

◆為末大(ためすえ・だい) 1978年(昭和53年)5月3日、広島市生まれ。広島皆実高-法大。400m障害で世界選手権で2度(01年、05年)銅メダル。五輪は00年シドニー、04年アテネ、08年北京と3大会連続出場。自己ベストの47秒89は、現在も日本記録。12年6月の日本選手権で現役引退。現在は社会イベントを主宰する傍ら講演活動、執筆業、テレビのコメンテーターなどマルチな才能を発揮。為末大学の公式サイトはhttp://tamesue.jp/。

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