濃密な1分12秒だった。12月10日、スピードスケートのW杯第4戦(米ソルトレークシティー)の女子1000メートルで、小平奈緒(31=相沢病院)が日本人女子初の世界記録(1分12秒09)を樹立した。昨季からW杯15連勝中の主戦場の500メートルに続き、W杯未勝利だった1000メートルでも今季は4戦3勝。そんな中で塗り替えた世界記録とあり、普段は冷静な女王も「今日は喜んでいい。これで1000メートルも自分の距離になったと思える」。珍しく興奮気味に喜びを語った姿に大きな手応えがにじみ出た。
1000メートルの成長は、平昌五輪を戦う上で、大きなアドバンテージとなる。今回の五輪は500メートルがこれまでの2本の合計タイムから、一発勝負に変わる。1000メートルは500メートルの4日前に行われるとあり、そこで結果を出せれば、スタートにより神経を注ぐ500メートルのプレッシャーも軽減されそうだ。
大学時代から小平と二人三脚で戦ってきた結城匡啓コーチは、「1000が滑れている時は500の後半も伸びる」と、1000メートルの成長をかねて課題に挙げてきた。かつて同コーチが指導し、小平にとって幼い頃の憧れだった98年長野五輪金メダリストの清水宏保氏も同五輪では1000メートルで銅メダルを獲得している。また、06年トリノ五輪のジョーイ・チーク(米国)、10年バンクーバー五輪の牟太ボム(韓国)、14年ソチ五輪のミシェル・ムルダー(オランダ)と男子の500メートル覇者は過去3大会連続で1000メートルでもメダルを獲得しているというデータもある。小平としても1000メートルから良い流れで500メートルのスタートを迎えたいところだろう。
小平の世界記録の陰に隠れる形となったが、同レースで2位に入った中長距離のエース高木美帆(23=日体大助手)の1分12秒68という今季世界2位のタイムも驚異的だ。主戦場はW杯4戦全勝の1500メートルながら、今季は1000メートルでも出場したW杯3戦すべてで小平に次ぐ2位。同走した小平が出した世界記録に闘志にも火が付いた。
「悪くないレースをしたなと思えるからこそ力の差を感じた。同走者の世界記録は悔しい。ただ、小平選手がいることで、自分の1000メートルに対する思いも上がっている。モチベーションを上げる要素としては十分すぎる」。同じ1分12秒の空気を吸い、1000メートルにかける目の色も一気に変わった。
互いに最も得意とする距離の「中間」での高レベルな争いは、日本人のワンツーフィニッシュへも期待が膨らむ。10年バンクーバー五輪に史上最年少の15歳で出場した高木は、当時団体追い抜きの補欠で、銀メダルを獲得した小平らから首にメダルをかけてもらった。決戦は来年2月14日。8年の時を経て、世界のトップスケーターに成長した2人の“共演”が今から楽しみだ。【スピードスケート担当=奥山将志】



