遠い異国 漆黒の夜道 石井一久のカーステレオから聞こえた「川の流れのように」…涙

東北楽天ゴールデンイーグルスが、開幕から好調です。就任2年目、状況にかなった判断で選手を躍動させる石井一久GM兼任監督の手腕が光ります。20年前のコラム…「この1曲」に、野球観の一端に触れるヒントがありました。(年齢、所属などは掲載当時)

ウイラブベースボール

久我悟

ドジャースに「イシイタイム」なる言葉が定着しようとしている。

練習でも移動でも集合時間の最後に現れるのが石井一久投手(28)だから。ヤクルト時代も、石井より遅い選手はいないから、姿を見せると「じゃあ、始めようか」となる。

ド軍でも全員着替え終わっても、まだシャワールームにいたりする。どこに行ってもマイペース。ド軍選手にヤクルトでも同僚だった深沢トレーナーが説明した。「ジス・イズ・イシイタイム」と。

流れに逆らわず、信じた道を生きる

石井が、美空ひばりさんの「川の流れのように」を愛聴していることを、キャンプ中に紙上で触れた。川の流れのように、自然の流れに逆らわず、信じた道を生きたいという同曲を彼のカーステレオで聴いた。

異国の暗い夜道だったせいもある。郷愁に誘われ、不覚にも写真部松本記者ともども涙ぐんだ。

ひばりさん最後のシングル盤となった同曲だが、当初はポップス系の別の曲で発売になるはずだった。ひばりさんもそれで納得していたのだが、発売直前になり突然、変更を申し出た。

スタッフは反対したが「今日だけは自分に決めさせて」と人生賛歌ともいえる同曲を貫き通した。

半年後、ひばりさんは亡くなった。

歌姫の本能が、人生のクライマックスにふさわしい曲を選ばせたのだった。

昨年、石井も1度は今季のメジャー挑戦をあきらめた。しかし、最後は自分の信じた道を選び、6日(日本時間7日)初先発を迎える。キャンプインから45日。この間、石井が何度となく口にした。「メジャーで野球人生の最後を刺激的に送らせてもらう」。ふと「川の流れのように」が脳裏で響いた。

マイペース。それは時として周囲を慌てさせ、驚かせる。それは石井だけじゃない。ドジャース野茂、メッツ小宮山、カージナルス田口、エクスポズ吉井、大家。キャンプ中、フロリダ州の東海岸で出会った日本人メジャーリーガーは、人生の大きな決断を経て、自分のペースで足跡を残していた。

ひばりさんも歌っている。♪雨に降られてぬかるんだ道でも いつかはまた晴れる日が来るから…

成功も失敗もすべて彼らのペース。それもまた人生、だから。

選手交代を告げる石井GM兼監督

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