体操の内村航平(32)を取材する醍醐味(だいごみ)は、平静に発せられる言葉の深みを味わうことにある。

ひとり別次元の大技をさらりと決める「キング」は、言葉でも「キング」を漂わせる時がある。

17日に行われた新所属先の発表会見も例に漏れなかった。コロナ禍による業績悪化で、飲食業のリンガーハットとの4年にわたる契約が終了したのが昨年12月。17年3月のプロ転向後から、育った土地、長崎発祥の同社とは相思相愛だった。もともと21年末まで長期契約を結び、体操の普及というビジョンも共有していたパートナーだった。それが打ち切りになった。

それから2カ月で迎えた会見だった。新所属先は、17年7月からスポンサーだった自動車販売業などを行う東京が本社のジョイカル社。登場すると「最初はどうなるかと思いましたが、皆さんにいい報告ができて良かったです」と語り始めた内村の、この日最も「らしい」発言は以下だ。

「ここ1年はイレギュラーすぎて、どうしていいかわからない日々が続き、その中で所属がなくなり。プロの世界でやっていく厳しさも知り、契約していただけることのありがたみも知った。プロの世界でやっていくことはあらためて大変なんだなと思ったので、華やかに見える世界かも知れないですが、ここを目指している選手には厳しさも教えることできたのかな。五輪に対しては、変わらず、やるであろうと信じてやっているだけです」。

東京オリンピック(五輪)への心境を問われての返答。特に注目は、「厳しさも教えることができた」という言葉だ。さらりと深い。

ここ(プロ)になったのは、後進の道を作る意味もあった。リンガーハットなどを含めて2億円を超える年間契約を実現。体操には夢と希望がある。それを見せてきた。ただ、コロナという敵に、内村でさえ「自分にもふりかかってくるのか。思ってもいなかった」と想定外に陥った。その中でも支援者が現れ、所属も決まった。

前向きな舞台は「内村だから」とすごさを感じさせる一方で、本人がそれに安住しない。「内村でさえ」という現実を発表会という公の場で告げることで、後輩たちに甘くない事実を突きつけ、それを乗り越えてこいと奮起を促しているように感じる。だから「厳しさを教えることができた」なのだろう。

契約期間は24年3月までの3年間。その理由を、ジョイカルの中村最高経営責任者(CEO)は「まずは体操を、内村選手を通じて広める。単年では続かないなと」と代弁する。愛する体操競技の普及という軸はぶれない。そのためには、後輩たちの躍進、協力も必須。肉体はボロボロで、3年先は見通せないが、それでもこだわった長期契約だろう。覚悟を示し、自らを手本としてくれる後輩へメッセージとする。

「だから」と「だけど」。可能性と厳しさを同時に示しながら、その深みは際立った。【体操担当=阿部健吾】