レスリングの世界選手権(9月、カザフスタン)代表権を争うプレーオフは、6日に埼玉・和光市体育館で行われる。一般入場者なしでの開催となる。メダル獲得で東京五輪行きとなる国際大会をかけた一騎打ち。最注目は女子57キロ級、五輪女王同士の最終決戦だ。五輪5連覇を目指す伊調馨(34=ALSOK)は、ケガがちで万全に遠い体を抱え、相手のタックルを切り返すカウンター技が減り、得意の寝技に持ち込めない。リオ五輪覇者の川井梨紗子(24=ジャパンビバレッジ)とは、昨秋の復帰後は1勝2敗。直前の試合では負けている苦境の伊調が活路を見いだすか否か。

優勝した15年世界選手権、16年リオデジャネイロ五輪の計9試合と、復帰後の18年全日本選手権、19年全日本選抜選手権の各種データを比べると、如実な違いがある。主な傾向は4つ。

 

<1>相手のタックルを受けて切り返す機会(カウンター、がぶり)の激減 抜群の反応速度と技術に裏打ちされた相手の技を殺しての切り返しができない。得点を挙げた技の打ち分け比率では26%→6%に。

 

<2>寝技の減少 立ち技、寝技のオールラウンダーだったが、寝技の割合が減少。69%対31%→88%対12%に。切り返し不発で得意パターンに持ち込めていない。

 

<3>得点時間の変化 第1ピリオド、第2ピリオドの得点回数の比率が逆転。72%対28%が24%対76%に。本人も「スロースターターじゃなく、前半から取りに行くと自分の流れもつかみやすい」と話す。

 

<4>得点率 1点獲得の所要時間は30秒2から91秒3に。タックル、カウンター系の技が出ず、相手の消極的姿勢が重なり、30秒以内に得点がないと自分の1点になる1点コーションが増加。2点以上になる技での得点が減少した。

 

この苦しい実情を変えるのはどうすればいいか。焦点は距離感だ。わずかに遠く、相手のタックルを受け切れていない。数センチでも足が出て前に重心がかかれば、つかみかかられてもつぶせる(がぶり)。足も運びやすく、かわして背後に回る(カウンター)もしやすくなる。その一歩の違いが五輪4連覇の真骨頂だった。

往年の動きはよみがえるか。1つの鍵は先月の全日本選抜選手権決勝の終盤の攻防にあった。5-0とリードした川井が放った最大武器の片足タックルを伊調が外し、背後に回って得点した場面。伊調本人は「攻められて気持ちが前に出た」と分析した。その心理を「勇気」とも表現した。それをプレーオフで再現できるかどうか。

川井の高水準での安定とは逆に、データ面で伊調の衰えは隠せない。ただ、「勇気」が体を動かすならば、切り返しからの寝技に持ち込むこともできる。その一歩こそが勝敗を分ける。

【阿部健吾】