<フィギュアスケート:グランプリシリーズ第6戦・NHK杯>◇23日◇宮城県セキスイハイムスーパーアリーナ

 昨季世界選手権銅メダルの羽生結弦(17=東北高)が、SP世界歴代最高となる95・32点を出し、首位発進を決めた。東日本大震災で甚大な被害を受け、自身も被災した地元宮城県での大会。感謝の気持ちを力に変え、第1戦スケートアメリカでの最高記録95・07点を自ら塗り替え、2位以上で確定するシリーズ上位6人で争うGPファイナル(12月6日開幕、ソチ)に大きく近づいた。高橋大輔(26)は87・47点で2位。女子は浅田真央(22)が67・95点で首位、鈴木明子(27)は5位、今井遥(19)は9位だった。

 突き上げた震える右拳に呼応するように、満員の観客が総立ちになった。降り注ぐ賛美の声に、羽生は心地よさそうに顔を和らげる。世界記録を出したスケートアメリカより、体に残る感触は確か。95点台を再びたたきだし、「満足感が違う。2回も続けて出せて。この前の試合より自信をもってできた。99点です」。地元で確信の滑りだった。

 「アメージング!」。今季から師事する、10年バンクーバー五輪金メダルの金妍児を育てたオーサー・コーチも大称賛の3分弱。冒頭の4回転トーループの美しさにジャッジも大きな加点を与える。基礎点が1・1倍になる後半の2本のジャンプ。最後の3回転を着氷すると、「あとは気楽にいこう」と締めのポーズまで、極上の滑りをファンに届けた。

 慣れ親しんだ宮城。練習拠点のカナダから2カ月ぶりに帰郷し、先週末に思い出の場所を1人で訪れた。アイスリンク仙台。4歳からスケートを始め、震災発生時も練習していた特別なスケート場だ。

 震災では大きな被害を受け、営業再開は4カ月後の7月。その間、練習場所を求めて他県を転々とする間も、常にこのリンクのことが頭にあった。復興支援金となるチャリティーグッズ発売のポスターには「皆さん、ご協力よろしくお願いします。みんなと前へ!!」と書いた。思い出の場所の復活を願ってきた。

 カナダに移住することを決めた3月には、スタッフ皆に送り出してもらった。在家支配人の「いつでもここに戻ってきてください」の言葉に号泣。復興を目指す状況下で快く送り出してくれた。「知り合いがいっぱいいて、安心できる試合。だからこそ、みんなの前でいい演技をしたい」。感謝の滑りを見せたかった。

 ファイナル出場条件の2位以上どころか、郷里から再び世界を驚かせた。会見では英語で声を弾ませ、「I

 feel

 so

 good!(気持ちいい!)」。今日のフリーでまた新たなサプライズを巻き起こす。【阿部健吾】

 ◆日本勢のGPファイナル進出条件

 6大会あるGPシリーズは各大会1位15点、2位13点、3位11点…とポイントが与えられ、出場2大会の合計ポイントで6人がファイナルに進む。男子は既にチャン、小塚、町田が決定。羽生、高橋は2位以内なら自力で決まる。女子はワグナー、コルピが決定済み。浅田は4位以内、鈴木は2位以内で切符を手にする。男子の無良と女子の村上、NHK杯出場の今井も数字上は進出の可能性を残しているが、有力選手の成績不振が条件になる。