飽和状態の映像世界をかき回す NHK「きれいのくに」加藤拓也氏の強い作家性

【番記者裏話】スクープや芸能界の最新情報を求めて現場を駆け回る芸能記者が、取材を通じて感じた思いをつづります。とっておきの裏話を明かすことも…。「市川森一脚本賞」初の20代受賞となった加藤拓也氏の世界観に迫りました。

番記者裏話

竹村章


先日、東京・渋谷のNHK内にある記者クラブで行われた「第10回市川森一脚本賞」の受賞者の会見を取材した。

脚本家の市川さんが亡くなったのが11年12月。この脚本賞も10回を数えることになり、月日が経つ早さを感じる。市川さんと言えば「快獣ブースカ」でデビュー。「ウルトラセブン」「帰ってきたウルトラマン」をはじめとして、数多くの作品を残してきたが、個人的に思い出として残るのが、なんといっても「傷だらけの天使」だ。萩原健一さんと水谷豊とのコンビ。バディーものの傑作だ。いつか、2人での共演を再びと、夢見たり奔走したりした業界人は少なくない。

その、10回目となる市川森一賞を受賞したのは、NHKの連続ドラマ「きれいのくに」(21年4月から放送)を書いた加藤拓也氏(28)だ。

同賞では初の20代の受賞者となった加藤氏は「ありがたく思っております。演劇がメインで、ドラマと映画の仕事もしています。劇団の作品をどう映像に反映できるか、行ったり来たりしています」と喜びを語った。

加藤氏は東大阪市の出身。高校在学中からラジオ番組、演劇などの演出を手掛け、18歳でイタリアに渡り映像作家として活動。帰国後は、東京でホームレス生活を送ったこともあったという。たまたま、知人のつてで演劇人が多く集まるシェアハウスに転がり込み、その後劇団を立ち上げることになった。

18年3月にフジテレビで放送されたドラマ「平成物語」が第7回市川森一賞の候補作、19年4月に放送された日本テレビ系「俺のスカート、どこ行った?」が第8回の候補作となり、今回の受賞となった。

「きれいのくに」は異色というか、かなりとがった作品だった。NHKならではというか、民放だったら、スポンサーも含めて、もしかしたら成り立たなかった作品だったのかもしれない。

なにしろ、美容整形によって、20代以上の約8割にあたる大人たちが、その時のトレンドに合わせて整形したという異色の世界が舞台だ。だが、その後、10年前に美容整形は禁止され、10代の子供らはそのままの顔で生活しているという、大人と子どもの分断も描いた。美容整形という、ルッキズムを肯定しているかのように捉えられる危険性もあるだけに、なかなかの挑戦作だったと思う。

それだけに、加藤氏のもつ強い作家性にひかれてしまう。

現在は、映像作品が飽和状態だ。ネット配信サイトのCMでは、1日に1本視聴しても600年もかかると、保有作品の量が強調されている。その反動か、映画を10分に短縮したファスト映画の違法サイトが設けられたり、現在の連ドラでは、途中から参加できるように、過去の放送分を凝縮した動画を制作するなど、圧縮映像は若者には浸透しているようだ。

そんな現状に加藤氏は「5分でまとめられるものなら、最初から5分でいいのでは」と突っ込む。さらに「5分でまとめられない作品を作りたい」とも。強い作家性で、この世界をかき回して欲しいと願う。