「イカゲーム」は「カイジ」っぽくないところが、むしろキモなのです/ダメ推しネトフリ解説

ひとたび沼にはまると寝不足になるネトフリ。2021年に突如登場したこの作品の“罪”は大きい。日刊スポーツのドラマ好き過ぎ記者もはまりました。「梅ちゃんねるNetflix版」第2回は超ヒット作「イカゲーム」。

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梅田恵子


 前回〝ダメ推し解説〟した「愛の不時着」に続き、今回は「イカゲーム」(韓国/21年9月配信)です。「不時着」は20年、「イカゲーム」は21年の流行語大賞をけん引し、2年連続で韓国ドラマの勢いを見せつけるトピックとなりました。公開されるや、ネトフリ史上最も多くの視聴者を獲得し、韓国ドラマ界にとっても歴史的瞬間を飾った作品です。

 生きるも地獄な人物たちが、賞金456億ウォン(44億7000万円)をかけて〝負ければ即死〟のゲームに挑む殺りくデスゲームもの。人間の醜さ、美しさを圧倒的なスケールの映像でえぐり出し、横っ面を張り倒されたような余韻が今も残ります。60分×9話と韓国ドラマにしては短め設計で、週末のイッキ見にもおすすめです。

メーンの3人。日本では緑のダサいジャージがハロウィンの人気仮装に。Netflixシリーズ「イカゲーム」独占配信中

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★いきなり血みどろ展開★

 参加者たちは6つのゲームに挑むのですが、その内容は「だるまさんがころんだ」や「ビー玉遊び」など、昔ながらのアナログなもの。老若男女、誰にでもできて、生き残るチャンスは平等と思わせる仕掛けがうまいのです。

 第1ゲームは「だるまさんがころんだ」。女の子の巨大ロボットにセンサーとマシンガンがついていて、動いた人の頭を容赦なく吹き飛ばし、逃げまどう参加者たちを水平撃ち。子どもの遊びと殺りくのコントラストに、一気にゲームの世界に引きずり込まれることになります。

昨日の友は今日の敵。456人が次々脱落していき…。Netflixシリーズ「イカゲーム」独占配信中

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★「カイジ」?「アリス」?★

 出だしの「だるまさんがころんだ」の展開が映画「神様の言うとおり」(14年)のまんまであるとか、富豪が貧者をもてあそぶ「鉄骨渡り」が「カイジ」に似ているとか、類似性の指摘も多くあるところです。日本のマンガの大ファンであるファン・ドンヒョク監督は「カイジ」などからモチーフを得たようですが、肝心のテーマ性はまったく違うという印象です。

 貧困や差別、社会的弱者の置かれた状況というリアルが徹底して描かれ、456億ウォンの大金にすら夢も希望もない世界観は独特です。デスゲーム系には珍しく「誰が、何の目的で」もしっかり明かされ、終盤は黒幕と主人公ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)の対決も大きな見どころとなります。必ずある攻略法を見つけ、時にはチームワークがカギを握る「カイジ」や「ライアーゲーム」のような痛快さ無縁の世界観です。

 国産のNetflixオリジナル「今際の国のアリス」(20年配信、主演山崎賢人)と比較する声も多いですよね。親友同士を戦わせるなど、人の心をもてあそぶゲームの悪質さはどちらも同じですが、物語の設定はことごとく逆です。「アリス」は、ある日突然ナゾのゲーム世界に放り込まれた高校生が、元の世界への戻り方も分からない中で希望を見つけていく成長物語であるのに対し、「イカゲーム」は自らの意志で参加した456人の欲望と、絶望しかありません。

ゲームを取り仕切るフロントマン(運営責任者)。仮面を取るとその素顔は…。Netflixシリーズ「イカゲーム」独占配信中

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★女性キャラがかっこいい★

 見ていて最もつらく、この作品の真骨頂ともいえる6話の「ビー玉遊び」。2人1組で戦い、「30分以内に相手のビー玉10個を自分のものにした方の勝ち」というシンプルなゲームです。これまで助け合って駒を進めてきた者同士が玉を奪い合う展開は、どんな血みどろ展開より残酷。人間として一線を超えた人たちの絶望がどす黒く描かれていきます。

 そんな中で、透き通るような名場面を残してくれたのが、脱北して幼い弟を抱えるセビョク(チョン・ホヨン)と、そんな彼女を「勝たせてあげる」というジヨン(イ・ユミ)の物語。女の子同士、ビー玉遊びのルールも知らず、30分の制限時間を「お互いのことを話して過ごそう」と決めます。

 実は誰よりも過酷だったジヨンの身の上と、「勝たせてあげる」の意味の重さに涙腺崩壊。30分間、ののしり合いとだまし合いを繰り広げる男性陣とのコントラストがドラマチックです。メンタルがすっきりと自立し、意志がしっかりあり、土壇場でかっこいい。韓国ドラマらしい女性像がこの作品でも発揮されていて、こういうキャラ描写のうまさにも世界水準の勢いを感じます。

右が脱北者の美少女セビョク(チョン・ホヨン)がクール。そして泣かせる。Netflixシリーズ「イカゲーム」独占配信中

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★続編間違いなし★

 主演のイ・ジョンジェは、「補佐官」シリーズなど、スーツの似合うクールなキレ者のイメージがあったので、借金まみれのボロボロなおっさんぶりにびっくり。ひとつのイメージが固定することを嫌い、演技の基礎を修めて何でも説得力をもって演じられる韓国俳優界のすごみを感じます。ワケありの幼なじみを演じたパク・ヘスも高い演技力を持つ売れっ子。レジェンド俳優、イ・ビョンホンや、「トッケビ」のコン・ユも登場し、何もかもが豪華です。

 スター俳優のコン・ユがあのまま地下鉄をうろちょろするだけの末端構成員なわけがない…。主人公、ギフンのラストシーンを見ると、続編があるのは間違いなさそうで、今から楽しみです。

参加者が集められた施設の不思議な階段。ここでもドラマが。Netflixシリーズ「イカゲーム」独占配信中

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主人公ギフンを演じるイ・ジョンジェ。他の作品ではパリッとした2枚目だが、今作ではギャップが激しく逆に萌える人も。Netflixシリーズ「イカゲーム」独占配信中

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借金まみれの主人公。クレーンゲームで大人げなく一喜一憂。Netflixシリーズ「イカゲーム」独占配信中

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◆梅田恵子(うめだ・けいこ) 文化社会部記者。11年から芸能コラム「梅ちゃんねる」連載中。昭和からのドラマおたくで、毎クールの連ドラを勝手な好みで採点する「勝手にドラマ評」も12年目。Netflixは16年から視聴。業務の一環のはずがそのまま沼。韓国ドラマ大好き。好きなジャンルはSF、サスペンス、ラブコメ、Kゾンビ。ギャラクシー賞テレビ部門選奨委員。