ロシアのウクライナ進攻 なぜアンパンマンは自分の顔を食べさせるのか

<歌詞>そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ 胸の傷がいたんでも(「アンパンマンのマーチ」)

番記者裏話

笹森文彦

ロシアのウクライナ進攻で反戦意識が高まっている。世界中で反戦歌が歌われるようになった。日本でもSMAPの17年前の曲「Triangle」(三角形の意)が、反戦歌として再注目された。「銃を向ける人」「向けられる人」「それを見ている人」の三角形を表している。

調べてみるとフォークソング歌手だけでなく、サザンオールスターズ、福山雅治、浜田省吾、中島みゆきなど数多くのビッグアーティストが反戦歌を歌っている。中には「えっ、これが反戦歌だったの?」という曲も多い。

漫画家や詩人として活躍したやなせたかしさん(享年94)が作詞した「アンパンマンのマーチ」は、幼児用アニメソングとしては難しい歌詞とも言える。戦争体験が色濃く反映されているからある。やなせさんの弟、柳瀬千尋さんは京大法学部を卒業後、海軍の特別攻撃隊員としてフィリピンで戦死した。同曲のテーマともいわれる。

日本の歌百選の「手のひらを太陽に」もやなせさんの作詞である。双方の歌い出しを比較してみる。

<歌詞>そうだ うれしいんだ 生きる よろこび たとえ 胸の傷がいたんでも(「アンパンマンのマーチ」)

<歌詞>ぼくらはみんな 生きている 生きているから うれしいんだ(「手のひらを太陽に」)

両方とも「生きる」ことへのメッセージが込められている。

やなせさん自身も戦争を体験した。中国との戦争に出征し、民衆を助けることが正義と信じた。しかし、敗戦で正義はひっくり返った。戦争自体が悪であることを痛感し、破壊して勝つヒーローを否定した。ひっくり返らない正義とは「飢えている人を助けること。そして、正義は自分が傷つくことなしに行えない」と確信した。その思いが、アンパンマンが自分の顔を食べさせる原点となった。

反戦を声高に叫ぶのではなく、聴く者の想像力に訴えかける作品もある。谷山浩子の「すずかけ通り三丁目」には、戦争を思わせる言葉は出てこない。唯一、間奏に大本営発表の放送が流れる。あまんきみこさんの童謡を元にして、タクシー運転手と女性の会話から始まる。空襲で、まだ小さい2人の子供を亡くした母が、命日にかつて住んでいた通りの家をタクシーで訪ねるストーリー。戦後、何十年もたっている設定なのに、母の声はとても若い。戦争の悲劇は、何年たっても消えないのだ。ぜひ聴いてほしい1曲である。