テレビからVTuber 入社6年目に子会社社長就任、ClaN大井氏の決意

【番記者裏話】スクープや芸能界の最新情報を求めて現場を駆け回る芸能記者が、取材を通じて感じた思いをつづります。

番記者裏話

松尾幸之介

不退転の決意で飛び込んだ。日本テレビの入社6年目、大井基行氏(28)が4月に設立された同社の100%子会社、ClaN Entertainment(以後、ClaN)の社長に就任した。VTuberを中心としたコンテンツ制作事業の分社化で、その発起人として抜てきを受けた。業界の発展を信じて取り組む一方、自身のキャリア形成についても「新しい形を作っていきたい」と意気込んでいる。

「テレビを超えろ」。近年の日テレが掲げるスローガンで、大井氏が手がけたVTuber事業もまさにその一環だった。17年の入社前から新規事業の創出には興味を抱いていたといい、「何か新しいことがしたい、エンタメを作りたい」と新人の頃から新規事業募集制度などを通じて事業計画を提案。CM営業などを行う部署に配属されていたが、18年8月に社長室付となり、2人のメンバーチームから事業を始めた。

もともとVTuberに精通していたわけではなかった。きっかけは17年にそのパイオニア的存在である「キズナアイ」を見たことから。エンタメを生業とする決意は、ファンクラブに入るほど好きだったというSMAPの影響からだ。「当時は(VTuberの)データ的な部分とか詳細はあまり見ていなかったですけど、直感的にここだなと思って、かけてみようと思いました。僕自身もSMAPさんを通じてエンタメで救われる、元気が出るという体験をしてきたので、もらってきた力を多くの人に届ける仕事をやっていきたいと思いました」。

開始当初は売上も上がらず、苦しい時期も過ごした。「始めたばかりの頃はかなり偏見も持たれていて、VTuberでビジネスをやっていると言うと『何それ』『何でテレビ局に入ってそんなことやってるの』みたいな。でも、絶対テレビ局に必要な動きだと思っていて、どこかで受け入れられる時がくると思っていました」。

2月の会見で意気込みを語ったClaN Entertainmentの大井基行社長(左)と、当時日本テレビ社長だった杉山美邦氏

2月の会見で意気込みを語ったClaN Entertainmentの大井基行社長(左)と、当時日本テレビ社長だった杉山美邦氏

オンラインイベントやバーチャルライブなどを実現させ、3年目の20年には売上高も大きく伸ばした。7月にはDMMとの共同で、ビジネスフェス「VCTEC2022」を実施するほか、昨年立ち上げた日テレ初のVTuber番組「プロジェクトV」の1周年記念オンラインライブ「Summer Voyage!!」も開催。「感慨深くて、正直『Summer Voyage!!』が実現した時は泣きそうになりました。100人以上のスタッフが絡んでいるイベントで、中川翔子さんや、乃木坂46さんや、May.Jさんらをゲストに招くことができた。少し前に比べたら、圧倒的に受け入れられたなという実感がありますね」。

分社化は数年前から希望していた目標でもあった。6月からは社屋も東京・汐留の本社を飛び出し、一から物件を探して目黒の新オフィスへ。約20人の社員・スタッフの中には日テレと兼務している者もいるが、大井氏は退社を決断し、ClaN一筋に。「今の物件はたまたま空いていて、1軒目で決めました。目黒周辺は隣の五反田が『五反田バレー』と呼ばれていたり、スタートアップが多い場所でもある。そういう人との交流の場にもしたかったんです。場所ができるとみんなが集まって、独自のカルチャーも作りやすくなったなと思っています」。

VTuberやメタバース(仮想空間)を活用した事業に希望を見いだし、若くして社長となった。そんな自身のキャリア形成でも示したいことがある。「僕の場合は起業家ともちょっと違うと思っています。日本テレビという会社に入社し、そのリソースを活用して新しい会社を作り、ビジネスを生み出す。ありがたい環境だなと思っていますし、すでにそうしたことをやっている企業さんもありますが、テレビ局ではなかなかなかった。こうしたことが増えていけばいいなと思っていますし、いい前例を作りたい。100%子会社ですし、僕が結果をだせば日本テレビの利益にもなる。お互いにとって良い形になっているんじゃないかなと思います」。

メタバースの発展と共に、VTuber数もこの3年で10倍以上となるなど、業界は急速な成長を続けている。「仮想空間に人が集まると、そこにコンテンツが生まれます。そうしたことが当たり前の時代がまもなく来るので、今はそこに向けてやっているところです。今後は海外にも打ち出していきたいと思っています。走り続けるしかないですね」。

今後は5年以内に「現在の10倍以上」という売上高100億円超えを目指す。大井氏は「ClaNは『人生を変える、エンターテインメントを』というスローガンを掲げています。エンタメは生活必需品じゃないからこその力を持っているんじゃないかなと僕は思っていますし、多くの人の人生を豊かに、幸せにしたい。今後もコンテンツの数と質を増やして頑張っていきたいと思っています」。異世界への冒険は、まだまだ始まったばかりだ。