福島第1原発ルポ 約6時間半滞在 震災から11年の「今」を見た

職員の線量計が突然「ピーピーピー」と鳴り響いた。自分の線量計は正常に動いているか。緊張と不安・・・福島第1原発取材ルポ。

ストーリーズ

沢田直人


東日本大震災から11年。東京電力福島第1原発の3号機の外壁には津波による生々しい傷が残っていた。東電の担当者が放射線の線量計を向けると、毎時220マイクロシーベルトを示した。一般の人の年間被ばく限度は1000マイクロシーベルトで、約4時間半で限度に達することになる。2号機と3号機の間の道は、今回取材できる範囲で最も線量が高く、最も燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)から近い。構内の96%が防護服不要で簡易マスクで回ることができるというが、広報の担当者から速足で通り抜けるよう促され、緊張で心拍数が上がるのを感じた。

津波の影響で傷がついた東京電力福島第1原発の3号機の外壁(日本記者クラブ代表撮影)

津波の影響で傷がついた東京電力福島第1原発の3号機の外壁(日本記者クラブ代表撮影)

30年~40年かかると言われている廃炉作業。担当者は「解決の糸口を見いだせない課題がいっぱいある」と語った。最終的な廃炉の形も決定していないという。震災から11年が経過したが、出口が見えず手探りな状況が続いていることに驚いた。担当者は最も難航しているという、燃料デブリの取り出しについて「世界的に前例がない。おまけに遠隔でしかやりようがない。相当難しいプロジェクト」と説明した。燃料デブリは1号機に279トン、2号機に237トン、3号機に364トンの計880トンあるとみられる。2号機でロボットを使った調査が進められているが、年内に試験的に少量の取り出しができるかどうかの段階だという。担当者の「トライアンドエラーを繰り返していくしかない」という言葉が強く印象に残った。

津波の影響で傷がついた東京電力福島第1原発の3号機の外壁(日本記者クラブ代表撮影)

津波の影響で傷がついた東京電力福島第1原発の3号機の外壁(日本記者クラブ代表撮影)

私は震災当時、栃木県の学校に通う中学1年生だった。揺れた瞬間は、理科の授業中で「初期微動」や「主要動」など、ちょうど地震の勉強をしていた。自宅に大きな被害はなかったが、両親は地元紙に掲載されていた放射線量の数値を気にしていたという。原発のニュースは初めて聞く言葉が多く、当時の私には難しかった。

震災から10年を迎えた21年、入社1年目の時は福島県いわき市のリゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」のフラダンサーを取材した。被災された方の生活について、詳しく知らないまま取材を進めたことを後悔した。2年目の今年は多くの方が避難を強いられる原因となった東電の福島第1原発へ、日本記者クラブ取材団の一員として訪れた。

東電の構内では用意された小型線量計を持ち、バスで移動した。線量計は見るのも持つのも初めてだった。1号機から4号機を一望できる高台に案内された。津波で水素爆発を起こし、鉄骨がむき出しとなった1号機からは約100メートルだった。原子炉近くでは、白い防護服を着た職員や作業用トラック、クレーン車などの重機がせわしなく動いていた。20分程滞在し事故当時の説明を受けた。職員の線量計が突然「ピーピーピー」と鳴り響いた。毎時20マイクロシーベルトを浴びる度に鳴る警告音だという。取材中、自分の線量計は一度も鳴ることなかった。正常に動いているかを不安に感じ、職員に確認もした。リスクと隣り合わせの場所だと改めて感じた。

ALPS(アルプス=多核種除去設備)処理水の放射線量を測定する東電の社員(日本記者クラブ代表撮影)

ALPS(アルプス=多核種除去設備)処理水の放射線量を測定する東電の社員(日本記者クラブ代表撮影)

燃料デブリのほかに、間もなく佳境に入ろうとしているのが処理水の問題だ。構内には巨大なグレーと水色のタンクが並んでいた。直径12メートル×高さ12メートル。総数は1061基。処理水を最大137万トンまで保管できるが、既に129万トンを超え、23年には満杯になるという。海洋放出は30~40年間かけて行われる。国は取り除くことができないトリチウムを含んだ処理水を、海水と希釈して放出する方針。断固反対している漁業関係者に対して、担当者は「技術的なことを含めて説明し尽くすしかない」と話した。信頼と理解が得られるまで対話を続けて欲しい。

福島第1原発には約6時間半滞在した。帰還困難区域が広がっている大熊町を通り帰路についた。閉鎖した洋服店や家電量販店のほか、半壊したまま手付かずの建物があった。

東京電力福島第1原発構内に立ち並ぶ処理水などを保存する大型タンク(日本記者クラブ代表撮影)

東京電力福島第1原発構内に立ち並ぶ処理水などを保存する大型タンク(日本記者クラブ代表撮影)

3月7日の取材から9日後の16日深夜、福島県沖で震度6強を観測する地震が起きた。この影響で、計160基のタンクがずれたことが確認され、1号機の原子炉格納容器内の汚染水の水位が約40センチ低下したと発表された。燃料デブリの冷却に影響はないという。昨年2月にも最大震度6強を観測していた。もし再び巨大な津波が来たら、水素爆発が発生したらと思うと恐ろしい。経過した11年より、はるかに長く険しい道のり続いている。風化させることなく原発の終着点まで見届けたいという気持ちが強くなった。